浜松市博物館収蔵品紛失事件

人の噂も七十五日、去年2021年年末師走の一日前に発覚したものの、 其れから二ヶ月を経れば、一般市民の関心も然程さほど迄は高く無く、 七十五日も待たぬ内に世間の印象が薄らぐのを懸念し、風化させない為にも、 市井しせい の研究者を自負する者として博物館を大いに有用と考え、 真っ当な運営を望む第三者的視点から見た記録として此処に記し置くものです。

浜松市博物館(2016年4月8日撮影)
浜松市博物館(2016年4月8日撮影)

2021年11月30日の既存メディア報道

事件は浜松市博物館で発生しました。 潜在していた当該事件が表沙汰になったのはメディアの報道に仍ってです。 主な処を以下に列挙しましょう。

判で捺した様に日付は揃って2021年11月30日ですから、 報告者の公表が当該日直近であった、若しくは公表を控える旨の依頼に仍って当該日となった、 孰れにせよ、勿論示し合わせた時日に違い有りません。

テレビ、新聞などに縁のない身としては、 個人的に本事件を知ったのは翌12月の半ば頃の噂話としてです。 耳に入れた本事件を、まさか其の様な事も有るまいと思いながらネットに掘り起こして漸く一般的知見を得られたのでした。 本情報を齎してくれたのは博物館の催す研究会に参加する人物で、 さて当該研究会に所属するのは大凡年金暮らしの高齢者ですから、近年の疫病騒動で参加者数は激減しています。 来館者数が運営の指標になる博物館が高齢者に的を絞り実施した集客手法の潜在的欠陥が露呈した形となっているのですが、 事件を身近に感じ問題視して猶、第三者的視点を持つ人数も自ずから減じていることにもなります。 ネット世界に縁遠く、特に所得税等を納めるでもない高齢者のみ知るばかりの状況も、 本来憂慮すべき事態が瞬く間に薄れ行く感の強められ、本事件の書き起こしを促す動機となっています。

以下に静岡新聞の2021年11月30日の記事 浜松城絵図など6点紛失 浜松市博物館「盗難の可能性も」 を短ければ、全文引用し、 また、YouTubeに動画を公開されるテレビ静岡の報道の文字起こしを引用、 加えて其の下に当該動画を埋め込み置きましょう。

浜松市は29日、市博物館(中区)の収蔵資料のうち、江戸時代の17世紀に作成された「浜松城二の丸絵図」など6点を紛失したことが7月の物品検査で確認されたと発表した。 購入総額は計370万円。いずれも文化財には指定されていない。 市は「盗難の可能性を否定できない」として警察への届け出を視野に、過去の管理状況を調べている。

紛失が確認された「浜松城二の丸絵図」(浜松市提供)
紛失が確認された「浜松城二の丸絵図」(浜松市提供)

江戸時代初期から藩主の政務と生活の拠点だった二の丸御殿を平面で表した同絵図は、1995年に古美術商から206万円で購入した。 17世紀の「遠州浜名五千石図(浜名領)」「遠州五千石御替地図(川東領)」(各72万1千円)と同じ風呂敷に包み、保管していたという。

同館は市内五つの分館を含め資料16万点を所蔵している。7月末までの検査で、取得額や評価額が2万円以上の「備品」286点を中心に確認した。 紛失が判明した6点は中区の本館の同じ収蔵庫で保管していた。 収蔵庫は施錠され、防犯システムを備えていて、職員など同館関係者でなければ開けられないという。

市文化財課によると、昨年7月ごろには書面上に存在した記録が残っているが、本当にあったかどうかは確認できていない。 市は同館職員への聞き取り調査を進める一方、紛失資料が古美術市場に流出している可能性もあるとみて、情報提供を呼び掛けている。

浜松市中区にある浜松市博物館で6つの資料が紛失しました。 6つの資料はいずれも来館者が立ち入りできないエリアに保管されていて、無くなった経緯は分かっていません。

紛失したのは「遠州五千石御替地図」や「遠州浜名五千石図」など6つの歴史資料で、購入総額は約370万円です。

中でも「浜松城二の丸絵図」は現在発掘調査が進んでいる浜松城の二の丸御殿を江戸時代に描いていて、市が1995年に206万円で購入しました。

浜松市文化財課・鈴木一有課長 「(浜松城二の丸絵図は)江戸時代の様子を知る非常に貴重な資料と思っています。 現在発掘調査をしている情報を補完する非常に重要なものです」

この博物館は分館も合わせ、約16万点を所蔵。

このうち取得額や評価額が2万円以上の「備品」は毎年7月に検査していて、紛失はこの検査で発覚しました。

原崎瞳記者 「紛失した資料は一般の展示スペースではなく、職員しか立ち入ることのできないエリアに保管されていました」

6つの資料は全て同じ収蔵庫に入っていて、外部に貸し出した履歴はありませんでした。

収蔵庫は常時施錠され、カギは職員が管理していたということです。

浜松市文化財課・鈴木一有課長 「博物館の運営としてはあってはならないことだと思っていますので、市民の皆様には大変申し訳なく思っています。 もし情報等ご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひお寄せ頂きたいと思います」

市は窃盗事件の可能性も視野に今後警察に相談し、紛失の経緯を調べる方針です。

紛失収蔵品は職員しか入れない場所に 窃盗も視野に警察に相談 浜松市博物館(テレビ静岡:2021年11月30日)

事件の概要

中日新聞の記事も併せ、報道内容をまとめれば盗難被害と思しき紛失の確認されたのは以下の六点です。

  • 「浜松城二の丸絵図」1995年購入(206万円)
  • 絵図「遠州五千石御替おんかえ地図(川東領かわひがしりょう)」(72万1千円)
  • 絵図「遠州浜名五千石図(浜名領)」(72万1千円)
  • 江戸時代の道中案内書「東海道名所図会ずえ
  • 暦師の佐藤伊織による四十五冊組の「伊勢暦」のうちの一冊
  • 「金原明善書簡」
絹本着色水野重央肖像画(延宝8年:1680)2021年11月12日撮影
絹本着色水野重央肖像画(延宝8年、2021年11月12日撮影)

紛失収蔵品の六点の合計購入金額は約369万円とされます。 値段が記事に明らかな絵図三点のみでは併せて350万2千円となり、此の三点で金額の95%を占める紛失収蔵品の構成です。 博物館の収蔵品は寄贈品ばかりで賄われているのではなく購入品も有るのでしたが、 扨、収蔵品管理が適切に為されていると仮定すれば他に紛失の品は無い筈で、 従って16万点と言う膨大な数に上る収蔵品にも、 報告される紛失収蔵品は購入品として値段の一度定まり、取り引き価格の明らかな品で有ったのが此処に判明します。

参考に博物館の収蔵品は寄贈品ばかりでないのは、 先日2021年10月23日から2022年1月10日迄開催された浜松市博物館のテーマ展「新収蔵品展」に於ける展示品 「水野重央画像」の脇の「MEMO」と記されたパネルに、事件を受けてか自ら示した 「博物館の資料は大部分が寄贈された資料ですが、購入した資料もあります。浜松市の歴史を研究するために欠かせない資料については購入もしています。」 との記述からも分かります。

紛失の発覚は去年2021年7月の収蔵品検品にて、 一昨年の2020年7月の収蔵品検品では存在が確認されていたと伝えられますから、 紛失の期間は2020年7月から2021年7月の一年間に特定されます。 紛失場所は六点が保管されていた一般の来館者が立ち入れない収蔵庫です。

また、通常博物館の展示ではしばしば他収蔵館と貸し出しし合い特別展など催したりするのが通例ですが、 紛失収蔵品六点孰れも貸し出しの記録がないと有りますから、 即ち浜松市博物館から一歩も外に出てはおらず、博物館内で煙の如く忽然と消えた理屈になるのでした。

刑事事件の可能性

以上の状況から関係者が盗難と考えるのも自然でしょう。 浜松市博物館は浜松市の設置する 博物館法[※1] 第2条に定める所の「登録博物館」ですから、 此れを管掌する浜松市行政は窃盗事件の可能性も視野に今後警察に相談するともされています。 窃盗罪は原則非親告罪ですから被害者告訴無しに起訴される犯罪であり、 2022年初頭には未確定ながら刑事事件の様相を濃く呈してもいるのです。

浜松中央警察署(2016年10月4日撮影)
浜松中央警察署(2016年10月4日撮影)

盗難前提に、巷間、まことしやかに囁かれているのは内部の犯行ではないかと言う噂です。 大凡、外部の者たる来館者は其処が収蔵庫で有ること自体知りません。 此処数年一般よりは高いだろう頻度で通い付ける自分などでさえ、収蔵庫とは何処か秘密の入口があって、 其処を抜けて下った地下室に確り空調管理されて保管されているもの、などと言う先入観を持ち、 ちょいちょい目にする其処が収蔵庫などとは今回の報道で初めて知りました。

職員が行き来する白昼堂々と此の比較的目立つ位置に配置された収蔵庫の鍵を破るのも無理な話でしょう。 下世話な想像を掻き立てれば、犯人像は内部に精通し鍵の在り処も知り、 果ては入手後の換金販路も心得ている者と考えるのが自然と思われてきます。 内部の犯行であれば、収蔵品点検の周期も心得、 2020年8月に犯行に及べば丸々一年発覚を免れるのも想定内でしょう。 管理が杜撰であると知れば尚更、犯行への敷居は下がるでしょう。

但し、報道時点で聞き取り調査を実行しているのは浜松市行政であり、 警察の介入は報告されておらず、2022年が明けても続報は聞かれず、 公表時点で1年を経ているかも知れない期間が更に長く置かれれば置かれる程、 真相は遠くなり、以て憂慮される処です。

経済的視点

公立博物館は已むを得ない事情がある以外、入館料を取ってはならないと博物館法に定められていますが、 浜松市博物館では入館料を徴収します。 入館料は浜松市博物館条例[※2] の第7条に参照される別表第3に定められており、 常設展では小人は無料、中人は150円で、大人が310円、70歳以上は無料と、 世代間搾取の謂われる現在に凡そ時代錯誤の価格設定が設けられているのは老人主体の世の中の趨勢を表してもいます。 浜松市博物館のB/Sは見付けられませんでしたので、詳細は不明ですが、 以上考慮して単純に一人300円と甘く見積もった時、今回の紛失収蔵品の一瞬で失われた購入価格369万円の収入を、 例えば一年間掛けて得るには、 12,300人の入館が必要となり、休み無く営業して毎日33人の入館が必要な勘定になります。 八時間の開館時間で割れば毎時最低四人の入館が必要です。 残念ながら頻繁に出入りする身に取っては入館料では職員の人件費さえままならないのが窺え、 其れは博物館法の第二条に定める如く「教育的配慮の下に一般公衆の利用に供」すのが目的ですから、 非営利的に運営されるのは当然ですが、さて、すると購入費は市税で賄われる他有りません。 此れが浜松市行政側から見た経済的視点です。

万延大判(浜松市博物館所蔵2022年1月9日撮影)
万延大判(浜松市博物館所蔵2022年1月9日撮影)
安政小判(浜松市博物館所蔵2022年1月14日撮影)
安政小判(浜松市博物館所蔵2022年1月14日撮影)
安政丁銀(浜松市博物館所蔵2022年1月14日撮影)
安政丁銀(浜松市博物館所蔵2022年1月14日撮影)
文政南鐐二朱銀(浜松市博物館所蔵2022年1月14日撮影)
文政南鐐二朱銀(浜松市博物館所蔵2022年1月14日撮影)

一方、若し盗難であったならば、犯行者側の経済的視点から見た時、 風呂敷に一まとまりになっていた、と報道される絵図三点と 他三点では金額的評価に著しく差が有るのに気付くでしょう。 金銭目当ての盗難とすれば行き掛けの駄賃に他三点を失敬すると考えられなくも有りませんが、 些か必然性が薄く、すると絵図三点と他三点は別の紛失の可能性も有り得る理屈です。 高額絵図三点は盗難されたにしろ、他三点は単純な紛失の可能性も出て来るのです。 悪く言えば自らの管理不行届に乗じて此の機会に一緒くたにしてしまえ、という気持ちがあるのではないかと疑義が発生し兼ねません。

加えて、記事には「紛失が判明した6点は中区の本館の同じ収蔵庫で保管」と有るものの 「絵図三点を同じ風呂敷に包み、保管して」とありますから、 換金だけが目的ならば此の風呂敷だけ頂戴すれば宜しい訳で、 益々他三点の今回同時期の紛失ではない可能性が高くなってしまいます。

市行政の姿勢

此処で浜松市博物館を位置付ける浜松市行政の組織図の一部を浜松市webサイトから抜粋し記し置きましょう。

浜松市行政組織(令和3年6月2日現在)
浜松市行政組織(令和3年6月2日現在)

図を見れば、浜松市行政のトップは首長たる浜松市長で、其の下に副市長が置かれ、 其の下に「市民部」及び「文化振興担当部長」が有り、 更に其の下に「文化財課」が有って、此の課が浜松市博物館を管掌しているのが分かります。 当然、文化財課の長は本事件に関して釈明が求められますので、 スポークスマン的役割が上長から与えられるでしょう。

当該役割は而して必須ですが、其の際に世間一般的な納税者側の視点は勿論無用の筈の処、 報道に対する浜松市行政のスポークスマンたる文化財課課長氏の発言には些か違和感が否めません。 紛失であろうが盗難であろうが明らかな失態に違い無いに関わらず、 「博物館の運営としてはあってはならないこと」なる発言など、 管掌する者としての当事者感が感じられず、些か他人事の如き感さえ抱かされます。 スポークスマン的役割は今回に限らず、此処数年の間、担っているようで、 研究の要諦は記録と整理にあると心得る身の手元には、 四回程に渡る三事案の接触のログが残っていますので以下に記し置きましょう。

最初は2016年7月23日午後に催された高塚遺跡発掘の現地説明会にて おろし皿や灯明台を前にしての説明では例えば青の語源は兎も角、 其の流れの中での赤、更には白の語源の説明は不明瞭で、又、土色の変化についても要領を得ず、 就中なかんずく、 製作者の八割が女性で有るとの断定の根拠が全く不明で、呆れましたが、 此れは傍の若い職員氏の助けで不承不承引き下がった次第にて、 此の時など元博物館館長の向坂鋼二先生[K1] に随分苦言を呈したりもしました。

高塚遺跡出土の縄文土器(2016年7月23日撮影)
高塚遺跡出土の縄文土器(2016年7月23日撮影)
光明山古墳後円部(2018年11月23日撮影)
光明山古墳後円部(2018年11月23日撮影)

二度目は光明山古墳の発掘に関する事案にて、 2018年11月23日には光明山古墳発掘調査現地説明会に参加した際は、 矢鱈と浜松独自、浜松独自とのスポークスマンの主張を行き過ぎと感じて、周辺に居合わせた専門家に尋ねた上では、 実は食事と同じで地方差がある、くらいの温度にて、成る程浜松独自を強く主張したい裏には 浜松市の国指定史跡への追加という思惑が垣間見えたのが、 2020年1月18日には浜松市地域遺産センターでの「光明山古墳と浜松の前方後円墳」のギャラリートークでした。 因みに国指定史跡などは「地方創生」などの時の政策に合致すると指定を受け易いというご都合が有ります。 浜松市地域遺産センターでもスポークスマンを務める処に、幾つか質問を呈したのですが、 特に1号墳と2号墳の関係に於いて得られた回答には孰れも、 中央、大阪堺市の履中陵上石津ミサンザイ古墳、大阪府羽曳野市の応神陵誉田こんだ御廟山古墳、 両前方後円墳との比率に関する合理的な説明が必要になる筈なのですが、 勿論得られるのは眉間の皺ばかりで正鵠は得られず、隔靴掻痒たる感覚に悩まされ、 其の時も又、傍の若い職員氏に尋ね直したりしたものです。

最後の三度目は、2020年9月26日に催された浜松城跡第35次発掘調査現地説明会にて、 二階からの目薬はもう勘弁して欲しいと思えば思う程逆に働く世の習いに従ってか、 邪悪な引力に吸い付けられるようにスポークスマン担当の巡回班に属してしまい、 諦観と共に付いて回ると何処か[K2] で聞いたような東向きに建てられた浜松城との言質も、 二の丸から見て格好良いから、との理由が発せられるに及び、 次の若い職員氏が説明担当の巡回班に自ら所属を変更したのでした。 其れ以降、浜松市行政の文化財関連の説明会には赴ておらず、 スポークスマン変更迄は此の態度を維持する積もりでいます。

現場担当者のファインプレイで発見された本丸東北の鈍角誂えの石垣(2020年9月26日撮影)
現場担当者のファインプレイで発見された本丸東北の鈍角誂えの石垣(2020年9月26日撮影)
株式会社フジヤマ(2018年12月25日撮影)
株式会社フジヤマ(2018年12月25日撮影)

孰れも若い職員氏に補完されれば、彼等には感謝もし、期待も大きい処ではあるものの、 一体、近年の浜松市行政の発掘作業は大凡、浜松市元城町の測量調査企業 株式会社フジヤマ へ発注されており、単なる説明役に過ぎない浜松市行政の能力は其の分衰えている様にも見受けられます。 実際、現地説明会では傍に侍すフジヤマの発掘担当者に接触して、多くの有益な知見を得てもいます。 予算の都合もあるでしょうが、責めて彼等若手職員氏の可能性だけは潰さない様な施策が望まれます。 然も無ければ現地説明会にはフジヤマの担当者が居れば宜しく、浜松市職員は要らなくなり、 既存メディア向けに喋っていて貰えば事足りるとされる様になるでしょう。

行政の管掌の末端が斯くの如き様相を呈している現状は、 上部の無関心が齎していると考えるのが自然でしょう。 即ち、浜松市長にて、矢張り終ぞ文化財への関心の高さを窺わせる様子は見られたことが有りません。 今回の浜松市博物館の紛失収蔵品の市場価格は、六千億円を超える浜松市の決算に於いては誤差程度との金額には違い有りません。 しかし、浜松市運営に多忙なれば致し方無いものの、なればこそ条例に基き多く配下を用意されるのであって、 末端が斯くの如き状況なのは首長の無関心を其の儘反映しているとも取れます。 首長の姿勢を良いことに配下が胡座を掻いているとも取れるでしょう。 末端の有り様と其の上部の姿勢とは当然、無関係では有り得ません。 行政トップの関与がないからこその、其れを良いことにした放ったらかしにも見えます。

浜松市長以下の責任は勿論ですが、博物館法の第二十条に定められ、 浜松市博物館条例の第十八条に記される 博物館協議会 も責任の問われる処でしょう。 博物館の運営に関し館長の諮問に応ずるとともに、館長に対して意見を述べる機関たる博物館協議会の委員は、 第二十一条に当該博物館を設置する地方公共団体の教育委員会が任命する、とありますので 管理不備の責任は浜松市教育委員会に及ばざるを得ないでしょう。 市長及び議会から法律、条例に基づき運営の支援を専門的に付託されている点を鑑みれば、市長以下より責任は重大であると言え、 浜松市教育委員会及び浜松市博物館協議会が確り機能しているか、単なる名誉職に堕していないか、甚だ疑問にて検証が望まれます。

本案件から先ずは一切言及の無い、行政トップの浜松市長の文化的姿勢は薄いと取って構わないでしょう。 無論、首長にも其々特性が有りますから、此の文化、教育方面には期待出来ない分、 経済、治安、都市インフラ等、他の諸々の分野には一層の奮励を、一般市民としては期待したい処です。

お座なりの対策

閑話休題、政治向きの話から紛失事件の本筋に話を戻せば、 事件後如何なる措置がとられているでしょうか。 俸禄や些細な人事的な異動は勿論部外者には知り得ませんが、 上に見た行政組織の浜松市博物館に関する大きな人事異動は今の処聞かれません。 例え頻繁に出入りしていても全くの部外者から見れば丸で動きが無く見られます。

漏れ聞く処に仍れば対策の一つとしては関係者以外出入りを禁じられる二階のお手洗いの使用禁止があると言います。 浜松市博物館には浜松市条例の変化もある中、浜松市博物館が30年以上もの長きに渡り催される研究会もあり、 其の最古参の会員氏から聞いた話にて、関係者以外出入り禁止であれば本来部外者の使用がなる筈も無いにも関わらず、 何故当該禁止事項の設けられたかを推測すれば、関係者以外立ち入り禁止の会議室を利用する基本的には部外者である、 研究会の会員の使用が考えられるからでしょう。 不便と共に不愉快に感じ、不当な扱いと不満を漏らす最古参会員氏のお気持ちは兎も角、 去年2021年夏以降に急に使用禁止の紙が貼られたと聞きましたから、 第三者的視点からは収蔵物紛失事件に関連する対策と考えるのが自然でしょう。

「浜松城二之丸跡」石標越しに見る浜松市役所(2016年9月19日撮影)
「浜松城二之丸跡」石標越しに見る浜松市役所(2016年9月19日撮影)

しかし此の対策は些か頓珍漢な感が否めません。 どの職員より博物館に長く出入りする無関係のお手洗いの近い高齢者に不自由させるための意地悪になるだけで、何の意味も為しません。 自ら望んで高齢者に的を絞り集客しているにも関わらず何をか言わんやです。 最早、当局、若しくはマスコミから聞き込みが有った際に対策の実施を言いたい為だけの 言い訳エクスキューズ と言っても過言ではないでしょう。 高齢者にターゲットを絞って集めておいて 当の高齢者の不便を招く対策も有りません。 また、此の施策は職員達自らが内部の者に因る盗難を疑っている事実を図らずも示しています。

なかなか内部の対策は窺い知るのが難しい面がありますが、 一方、事件を受けての浜松市行政としての外部向けの公式発表は如何なるものでしょう。 一応浜松市の公式webサイト内に用意されてはいますが、閲覧のなった向きは少ないかと思います。 トップページから辿って当該ページを見付けるのは難しいでしょう。 浜松市博物館のページ[※3] も浜松市webサイトの下層に置かれていますが、其のページは博物館のカテゴリーに置かれてはいませんし、博物館から其のページへのリンクも貼られていません。 其のページは2022年1月28日付けの更新が記される「令和3年11月~令和4年1月の委員会日程」[※4] であり、其の中の「令和3年12月」の一項目として12月3日(金曜日)付けの 「市民文教委員会(午前9時30分、第5委員会室)」があり、更には其の中にも4つのリンクの内の一つとして 「浜松市博物館資料(備品)の紛失について【資料】(PDF:108KB)」[※5] が有って漸く辿り着けるのです。 此れだけ深く、博物館から遠くに置かれていては、さては見られたくないのではと勘繰ってもしまいます。 しかもPDFファイルこそ2021年12月3日付けとなっており報道発表の3日後ですが、 webサイトの更新日は2022年1月28日にて、此の二ヶ月は行政当局と市民文教委員会のみ知る状態にあったことになります。 尚、市民文教委員会の市議会議員の名を知りたければ 「委員会別名簿(令和3年5月20日現在)」[※6] に9名の面々が記されていますので、孰れか、何某かの参考にされるのが宜しいでしょう。

其れでも漸く「浜松市博物館資料(備品)の紛失について」書面を以て報道にも知られなかった情報を得られます。 参照の上、報道内容を上にまとめた盗難被害と思しき紛失の確認された六点を、改めて以下に詳細情報を加えた上で表化します。

No. 品名等 購入年月日 購入金額 備考
1 東海道名所図会
1組
昭和59年11月29日 120,000円 江戸時代の道中案内書。6冊がセットになっている。
2 伊勢暦(佐藤伊織)
のうち1冊
昭和62年10月3日 50,000円 江戸時代から明治時代に作られた、月日、季節、日出日没、月の満ち欠け、六曜などを記した当時 のカレンダー。45 冊組のうち1冊(嘉永三年庚戌)のみ紛失。佐藤伊織は暦師の名。
3 遠州五千石御替地図
(川東領)1枚
平成7年5月19日 721,000円 延宝9年(1681)、浜松藩領(藩主青山家の時代)の領地替えに伴い作成されたと想定できる絵図。次のNo4と組み合うもの。大きさは 139cm×109cm(概数)。No3からNo5は同梱であった。
4 遠州浜名五千石図
(浜名領)1枚
平成7年5月19日 721,000円 延宝9年(1681)、浜松藩領の領地替えに伴い作成されたと想定できる絵図で、前のNo3と組み合うもの。大きさは 104cm×71cm(概数)。
5 浜松城二の丸絵図
1枚
平成7年5月19日 2,060,000円 浜松城内にあった二の丸御殿を描いた平面図。17 世紀(藩主青山家の時代)。大きさは 196cm×146cm(概数)。重要物品(取得価格が 200万円以上)である。
6 金原明善書簡
1通
平成13年10月30日 26,250円 古文書の類。金原明善が前田正名(薩摩藩出身、明治期に地方の産業振興に尽力した人物)へ宛てた書簡。
No. 品名等
購入年月日 購入金額
備考
1 東海道名所図会 1組
昭和59年11月29日 120,000円
江戸時代の道中案内書。6冊がセットになっている。
2 伊勢暦(佐藤伊織)のうち1冊
昭和62年10月3日 50,000円
江戸時代から明治時代に作られた、月日、季節、日出日没、月の満ち欠け、六曜などを記した当時 のカレンダー。45 冊組のうち1冊(嘉永三年庚戌)のみ紛失。佐藤伊織は暦師の名。
3 遠州五千石御替地図(川東領)1枚
平成7年5月19日 721,000円
延宝9年(1681)、浜松藩領(藩主青山家の時代)の領地替えに伴い作成されたと想定できる絵図。次のNo4と組み合うもの。大きさは 139cm×109cm(概数)。No3からNo5は同梱であった。
4 遠州浜名五千石図(浜名領)1枚
平成7年5月19日 721,000円
延宝9年(1681)、浜松藩領の領地替えに伴い作成されたと想定できる絵図で、前のNo3と組み合うもの。大きさは 104cm×71cm(概数)。
5 浜松城二の丸絵図 1枚
平成7年5月19日 2,060,000円
浜松城内にあった二の丸御殿を描いた平面図。17 世紀(藩主青山家の時代)。大きさは 196cm×146cm(概数)。重要物品(取得価格が 200万円以上)である。
6 金原明善書簡 1通
平成13年10月30日 26,250円
古文書の類。金原明善が前田正名(薩摩藩出身、明治期に地方の産業振興に尽力した人物)へ宛てた書簡。

報道記事には知り得ぬ全ての紛失品の価額が明らかにされ、 更には紛失した収蔵品は浜松市博物館に所蔵されう16万点中にも全て「備品」であるのも判然します。 「備品」とは此の書類に仍れば「1年以上その形状を変えることなく使用し、かつ、保存に耐え得る物で1個又は1組につき取得価額又は評価価額が2万円以上のものをいう。」と詳細に定義付けられており、 此れは報道にも見えた286件を数えるものともされています。 即ち「昨年7月ごろには書面上に存在した記録が残っているが、本当にあったかどうかは確認できていない。」との報道記事と読み合わせれば、 16万点ならぬ僅か286件の一旦は値付けされた履歴の有る「備品」の管理さえ満足になされていなかったのが露呈します。 備品さえ管理の行き届かぬ状況では、16万点に及ぶ収蔵品に及べば尚、不行き届きの全くないものかも疑わしく感じられて来てしまいます。

金原明善の家族への金盃御下賜を知らせる書簡(金原明善生家にて2019年11月15日撮影)
金原明善の家族への金盃御下賜を知らせる書簡(金原明善生家にて2019年11月15日撮影)

浜松市webサイトに本事件に関して見られる情報は管見には此れのみにて、 此のペラ一枚であれば如何にも説明不足です。 数分での尺が最大の報道記事と異なる所が少なければ矢張り情報不足は否めません。 加えて市民への公表迄を勘定すれば事件発覚からでさえ半年もの期間を経てしまっています。 ダメ押しに掲載場所が如何にも不適切です。 市議会にも市行政に取っても重要案件ではないとの判断であるのは了解しましたが、最低でも博物館のお知らせには長くリストの一項目として上げて置くべきでしょう。

全ての金額や備考などが見え、多少報道よりも詳細に渡っています。 流石に取引価格含めた帳簿の備えは有った訳で、取引の手早く可能な品ばかりが紛失しているのも判然し、 此れ等値段を知り得るのは如何なる者かを鑑みれば不都合な真実が浮かび上がるのかも知れません。 孰れにせよ追加の情報が状況を進展させるのは明らかで、些少にしろ以て一定程度評価する処ですが、 特に備考に「金原明善書簡」の概要が明らかにされている点を注目します。 高額の絵図三点の紛失は勿論残念には違いありませんが、詳細の明らかにされた上で個人的に最も惜しく感じられるのが「金原明善書簡」なのです。 何となれば備考に「金原明善が前田正名へ宛てた書簡。」とあるのを見て実に大きな喪失感を感じさせられたのでした。 其れと言うのも「日の丸弁当少考」なる2016年9月18日の拙稿[K3] の2021年4月25日の追記3に記した如く、前田正名は金原明善の明治16(1883)年の歳暮の送り先の一人であったと言う知見を得ていたからです。 知見の供与者の東北大学大学院文学研究 伴野文亮とものふみあき 助教からも、前田正名と金原明善の遣り取りの書簡、文書等の所在に於いては芳しからぬ状況であるのを聞いておれば、 恐らくは浜松市博物館に此の備品の存在を知れば助教も閲覧を強く求めたのではないかと思われます。 「日の丸弁当少考」をものした我が身に取っても切に読みたい文書であり、歯噛みを禁じ得ず、恨めしくさえ思います。

DXの遅れ

ITの専門家として、また 情報処理安全確保支援士 資格を保有する身に取って見ればお粗末なIT利活用及び情報セキュリティへの無理解も懸念されます。 デジタル庁 さえ創設されたご時世の流行りの言葉で言う Dデジタル・Xトランスフォーメーション の遅れです。

近年、世に情報セキュリティの重要さが言われる様になりました。 インターネットに様々な業種の主戦場が移りつつある現在、決済金額もインターネット経由の弥増せば、 犯罪、特に経済的其れの主戦場も連れて移動するのが人情にて、 情報セキュリティへの対応の欠落の其の分リスクが嵩上げされる状況となる道理です。 DXに遅れる代表的存在の既存大手メディアにさえ、インターネット上の情報漏洩の報道が相次ぎ、 ネット上に於ける多寡を問わぬ金銭簒奪の憂き目の報道なども散見される様になれば、流石に一般に周知でしょう。 今回の疫病騒動に尻を叩かれて尚、此の状況は加速されました。 大人はリモートワークが一般的になり、子供にも学校教育に世界に遅れてはならじとプログラミングが必須となった時代、 便利さと裏腹に危険の潜む情報の取り扱いに関する安全確保技能は現代人に必須の基礎教養となるのは理の当然です。

此の状況に対応出来ない業種業態も見られるのは致し方無くは有りますが、世界は遅れを許してくれません。 例えば、世界に冠たるビッグテック、日本で言うGAFAガーファの創設者に、 プログラミング不能の創設者、経営者は少なく、無理解者は勿論皆無です。 此の経営層の差が嘗て一世を風靡した本邦電機メーカーの現在の没落を招いています。 例えば、銀行業も対応の遅れる代表業態で、去年2021年に世間を騒がしたみずほ銀行のシステム障害では、 貨幣経済と頗る相性の良いITを本業と弁えない銀行経営陣の怠慢と丸投げ体質に有るのは言わずもがなにて、 2002年の同様のシステム障害の教訓が全く活かされず、20年もの間旧態依然とした儘の体質を延命させてさえいるのが知れ渡りました。 本業を丸投げして如何ならん、ドメスティックな市場に限定されれば何とか生き長らえていると言って過言ではありません。 又、頃日懸念されるのが医療関係従事者です。 マイナンバーカードが本人確認機能を以て健康保険証として機能すべく行政は政策を推し進めています。 しかし医者や薬局に訪れた際に実際に尋ねてみれば現況はお寒い限りで、空恐ろしくさえなります。 医療に於ける情報は特にセンシティブデータと位置付けられ、厳重な管理が求められますから情報セキュリティ知識は必須です。 関係者には情報セキュリティ座学の受講を義務付け、関連資格更新時抔には情報セキュリティ項目を設けるべきでしょう。

大凡行政にITの遅れが目立つのは一般に広く同意を得られる処でしょうが、 其れでもマイナンバーカードの普及抔には心を砕いている様子が伺われます。 行政中にも浜松市博物館は残念ながら何方かと言えば遅れている組織です。 以前個人情報管理の曖昧さを感じて、当該博物館の職員氏に直接システム状況を尋ねれば、 其れは全て浜松市役所のシステムに基づいている、と回答がありました。 独自性を弄すのは難しい事情も汲み取れはしますが、 完全依存の方針を言い切り其れで好しとする姿勢からは充分なシステム運用は望めない状況であるのが推察出来ます。

一般にDXについては、博物館よりは図書館の方が進んでいるように見えます。 個人的な感想にはなりますが、浜松市行政も例外ではない様で、 同じく市民部の下層に属しながら図書館と博物館には少しくDX状況に懸隔が有る様に見えます。 管轄する法律は異なり、那辺に事情が有るのかも知れませんが、 一つには書籍の為の2Dデータより、出土物の為の3Dデータの方が扱いの難しい事情が有るのでしょう、 然うであるならば、古文書等に於いては博物館は図書館と同条件の筈ですが、 浜松市文化遺産デジタルアーカイブ[※7] は、浜松市立中央図書館の名義となっています。

浜松城出丸跡に建てられた浜松市立中央図書館(2018年11月21日撮影)
浜松城出丸跡に建てられた浜松市立中央図書館(2018年11月21日撮影)

其れでも漸く浜松市立中央図書館に間借りする中に新情報として「博物館所蔵資料 [3D画像]」ページ[※8] が用意されたのは評価しても宜しいとは言え、如何にも遅い上に、出始めとは言うものの8点のみの3Dビューワーのみでは情報も少な過ぎます。 浜松市博物館は16万点もの収蔵品を誇っていたのでした。 此れらは博物館法に基づいて一般公衆の利用に供されるべき資料です。 更には此処に今回紛失した「金原明善書簡」も収録されていたならばと思わずにいられません。 骨董趣味の好事家になければ目的は書かれた内容なのですから誤解を恐れず言えば現物など如何でも宜しく、此処にデータ収録されていれば事足りるのです。 他五点とて同様です。 詰まりDX対応に遅れるとはこういうことであって、誰も罰し得はしないものの、其の罪は相当重いのです。 加えて戦犯に罪の意識は皆無ですから始末に負えません。

浜松市博物館のDXに遅れが有るのは、直接の接触の経験からは、 インターネットを高齢故か忌み嫌う嘱託の職員氏なども見え、 此の発言権などが比較的大きいのもDXを難しくする要因の一つに見えます。 デジタル化に仍り齎される様々な管理の手間を省き、迅速化し、尚且つ正確にもする、此れ等の状況に遅れが見られれば、 必然的に管理は勘と経験と手作業に仍らざるを得ず、手落ちの発生の確率は高まり、 今回の様な事態を招く確率が高くなるのは必定です。

浜松市博物館収蔵庫の施錠された扉(2021年12月12日撮影)
浜松市博物館収蔵庫の施錠された扉(2021年12月12日撮影)

其れにしても上の「お座なりの対策」に記した通り、僅か286件の「備品」の管理さえ儘ならないのは、収蔵品管理としては余りにお粗末です。 此れのみを以てしても凡そ管理簿のデジタル化には程遠い状況ではないかと推察出来、 何やら名寄せ等の観念も持たなかった行政データ管理の代表的失敗例「消えた年金」を思い起こさせます。 斯く状況下に果たして16万点の収蔵品は収蔵品其の物のデータ化は無理にしても品目一覧はデータ化されているのでしょうか。 若し為されていなければ、16万点の品目を流石に管理はしているでしょう、恐らく紙の管理簿は其れだけで管理を必要とする二重管理を要する膨大なものとなり、更に手違いを招く可能性が増えます。 今回「備品」の286点さえ管理の難しいのが露呈されれば、 定期的検品のされる備品ならぬ管理の極めて難しい状態の其れ等16万点の内、一点や二点失われていても誰も気付かない状態とも言え、実に由々しき事態です。 今回の紛失収蔵品の他に紛失物のない保証は誰が何の様に担保出来るのか、考えただけで不安になります。

斯くもDXに遅れを取っては、頃日の一般的リテラシーである、情報セキュリティもお粗末にならざるを得ず、 而して収蔵品はデータ化もされず管理は旧態依然たるのは勿論、勤怠管理や、入退室管理、出入庫管理も同様である様に考えざるを得ません。 記事から見れば収蔵庫の管理が全く覚束ないように見えるのは致し方ないでしょう。 職員室の内部迄立ち入った経験は有りませんので、断定は不能ですが、 盗難を仮定した場合に、対策としての鍵の使用管理も収蔵庫への入退室管理も出来ていないように見えます。 警察に届け出れば勿論入退室管理の帳簿の提出を求められるでしょう。 若しかしたら此の用意の時間稼ぎに公表を遅らせたのではないかとも勘繰ってしまい兼ねません。

今回の事件が盗難であろうがなかろうが、 紛失した時点で収蔵庫関連に於いて最低限の管理さえ出来ていないのが露見したのは間違い有りません。 当然ながら適切な対応が望まれますが、以上から期待は望むべくもないのかも知れません。 ITを嫌うばかりの年寄りが上司として踏ん反り返っていては改善処の話で無いのは上に挙げた遅れた業態例と一般です。 此処でも矢張りネットネイティブ世代の若い職員氏の発言力の拡大と権限の移譲が必要だと感じられます。 然もなければ世の動きは極東の其れも一地方博物館の事情など待ってくれず 又候またぞろ同様の事件を招き兼ねません。

博物館法の立法理念

DXの遅れを憂うのは何も闇雲に推進を煽って時代の先端を気取っているのではなく、 既にDXの進んだ素晴らしい実例が存在しているからです。 国立に於いては国立国会図書館が当たりますし、 公立に於いては佐賀県立図書館が有ります。 国立国会図書館に於いては旧来神田の古書街で法外な値を出さねば披見もならなかった貴重な書籍が、 自宅に居ながらにして簡単に見られる処かプリントアウトして手に取れるようになりました。 自身にも有り難く大いに活用するものです。 また佐賀県立図書館に於いては2019年3月25日に2万8千点以上の歴史資料画像の パブリックドメイン 化が公表[※9] されました。 「古文書や絵図などの公開している画像のほとんどが申請手続なしに、広く利用できる」とされる素晴らしい判断です。

公共とは実に重要なる概念にて、正しく しか 有るべく様に思います。 公共の原資たる税金を使って一部の者だけの閲覧が許される様な閉じたものであってはならないのです。

もう一度、博物館法を見てみましょう、 如何読んでも其の立法の精神は、先ず収蔵品の保全を第一に説き、 同じ重きを以て其れ等収蔵品を一般公衆の利用に供するとされています。 当然ながら図書館法[※10] も其の立法理念は博物館法と同様で有るのは、驚くには当たりません。 此れを佐賀県立図書館は実践しているとも言え、其れにはDXが欠かせないのが判然するでしょう。 斯く有って浜松市博物館も浜松市図書館も、更には浜松市美術館も同じく市民部に属しているのは妥当な組織構成の在り方と言えます。

また、第三条の博物館の事業には以下条文が記載されています。

  1. 一般公衆に対して、博物館資料の利用に関し必要な説明、助言、指導等を行い、又は研究室、実験室、工作室、図書室等を設置してこれを利用させること。
  2. 博物館資料に関する専門的、技術的な調査研究を行うこと。
  3. 博物館資料の保管及び展示等に関する技術的研究を行うこと。

博物館に於いては研究の半分は博物館資料の保管及び展示等に関して行い、 又、残りの半分の資料に関する研究は一般公衆に対しての供出に寄与する為であると読み取れます。 即ち、今回の事件は自らの 存在raison 理由d'être の半分を失わせてしまっているのです。

又、条文は如何読んでも公共からお足をいただいた上で玄人振って素人の手出しは許されざるべしとばかりに一部に隠匿しろとは読めません。 ほしいまま に研究に専念したいならば公共職から離れての自立は必須です。 然うなって初めて博物館資料の公共性に思い至るのならば、 博物館法に基づく博物館職員、更には博物館法第四条の館長、学芸員その他の職員に記される第三項に記される 専門的職員としての学芸員の資格は有りません。

以上から博物館は市民からの求めに応じて収蔵品資料を然るべく供出する義務があるのは自明です。 度々資料の確保に困難を感じ、其の垣根としての浜松市職員の存在を感じさせられる市井の研究者としては、 以て斯く条文を深く心に刻み込んで欲しく思います。 然もなければ日本国憲法第25条の第1項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」旨を具現化した 生活保護法[※11] を骨抜きにする根深い問題の 水際作戦 と一般です。 確かに一般公衆に貴重な収蔵資料を供するのには困難を伴うでしょう。 此れを長く是としている内に専門家たる身内一部に隠匿するような歪んだ常識が職員中にも蔓延したのだろうと思われます。 然ればこそのDXであるのであり、DXは貴重資料供出の敷居を大いに下げてくれます。 其の好例としての成功事例が国立国会図書館であり、佐賀県立図書館であるのです。 机上の空論ならぬ処の実証例が有る以上、博物館関連諸氏は博物館法立法の精神に則りDXを推進する義務が有ります。 DXの推進は延いては今回の如き事件の再発の抑止に繋がるのは言う迄も有りません。

文化財保護法

浜松市博物館を管掌する浜松市市民部文化財課では、 自らが「有形文化財の所有者のための手引き」[※12] なる題目で、文化財保護法、静岡県文化財保護条例、浜松市文化財保護条例を根拠法令として以下の如く謳っています。

国や静岡県及び浜松市が指定した有形文化財は、次世代に継承していく大切な財産です。 その所有者には、文化財の保存管理についていくつかの義務等が生じます。

続く第一項目、第二項目には以下の如く有ります。

日常的な保存管理について
指定された有形文化財(絵画や工芸品、古文書等)の所有者は、適切に維持されるよう、日常的な保存管理を行うことが求められます。 併せて、災害や盗難などへの備えも必要です。
文化財の公開について
指定文化財は貴重な国民的財産であることから、広く公開して活用を進める必要があります。 多くの市民に公開するようご検討ください。

此の「手引き」の拠る文化財保護法[※13] の第四条第二項には成る程典拠たるべく 「文化財の所有者その他の関係者は、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、 これを公共のために大切に保存するとともに、できるだけこれを公開する等その文化的活用に努めなければならない。」 と有ります。

以上を見れば、博物館法の立法の精神に加えて、文化財保護法についても素晴らしく良く承知しています。 しかし、今回の事件を以て文化財保有者に如何なる仕儀を以て自らを棚に上げるのかと問い返されたら何と答えましょう。 此の旨、先ず他人に指示する前に自らの襟を正さねばならない筈です。

確かに報道記事には、今回の紛失収蔵品は「いずれも文化財には指定されていない」とされてはいます。 だからと言って疎かにして宜しい筈も有りません。 今回の紛失収蔵品には文化財保護法の適用されるものでは有りませんが、 果たして若し博物館が其の様な理屈を強弁するとしたら聞く市民は如何感じるものか、 恐らくは言い訳エクスキューズとしか受け取れないものでしょう。

此処でも文化財保護法の立法理念を窺ってみます。 文化財保護法の制定施行されたのは昭和25(1950)年、 前年の昭和24(1949)年1月26日に法隆寺金堂が火災に見舞われ、貴重な法隆寺金堂壁画が焼損してしまったのを契機に制定されました。 此の日は又、昭和30(1955)年に「文化財防火デー」にも定められと東京消防庁のページ「文化財防火デーの契機となった法隆寺金堂火災」[※14] に有ります。 其処には又、当時ロンドン・タイムスの東京支局長であったフランク・ホーレー氏の弁が火災翌日の朝日新聞の紙面より引用されており、以下に孫引きします。

法隆寺は外国人にとっても非常に興味を持たれ、こんどの戦争中もフランスではパリ大学のオーボァイエという若い婦人が“金堂の研究”を発表、 アメリカでも最近ワシントン博物館のアッカー氏が、日本での金堂研究を翻訳して出版したところ、大変売れ行きが良かったというほどで、 こうした人たちが法隆寺が焼けてしまったと聞いたらどんなに悲しむことか。 ・・・日本人はこうした“貴重なもの”の取扱いが全く下手でデタラメだ

透明性と遵法精神

博物館とは公共政策に基づく文化政策の一つの具現化であり、 文化政策に基き行政が運営し公共に供す処の施設の一つです。 政策は行政に仍り実行に移されますが、遣りっ放しで許されはしないのは行政も心得ており、 総務省には国の行政制度、運営に関して行政評価ポータルサイト[※15] 迄が設けられて、政策評価の在り方に関する最終報告[※16] が配信される中に「平成13年1月の中央省庁等の改革に伴い、 政策評価制度が全政府的に導入されることとなり、その的確な実施が要請されている」とあります。 行政評価は全政府的な導入であり、地方行政の末端にも反映されるべきものです。 行政評価導入目的の三本柱の一つに「国民に対する行政の説明責任(アカウンタビリティ)の徹底」が謳われています。 アカウンタビリティが発揮されなければ、透明性の担保は保ち得ず、公開すべき情報も村社会の内部に隠匿されている状態となるのは論を俟ちません。

今回の事件に目を向ければ、浜松市行政のアカウンタビリティが徹底されているかは甚だ疑問です。 本事件は発覚の去年七月からメディア報道の十一月まで4ヶ月間も一般に公表されていません。 報道の3日後には市民文教委員会に報告されているものの、此れが一般に公開されたのは漸く数日前、今年2022年の1月も下旬になってからです。 更に市民文教委員会に報告されたのはプレスリリースより多少増しになったものの基本的に焼き直しに過ぎません。 今現在2022年1月末日に至るもプレスリリースからの状況の進展は一般に公開されていません。 市長も市議会も教育委員会も此れを是とし、何の指示もないとすれば当該問題の軽視が明らかで、文化的無理解者と見られても仕方ないでしょう。

上の「お座なりの対策」にも述べた如く、PDFファイル「浜松市博物館資料(備品)の紛失について【資料】」の置かれている場所も問題です。 浜松市webサイトのトップページに置く必要迄は求めませんが、 博物館カテゴリー内に当該ファイルへのリンクは最低限設けられるべきですし、「文化財課重要なお知らせ」にも長くリンクを留め置くべきです。 現在のwebサイトの状況では委員会日程の公開が義務付けられている為に、不承不承明らかな不祥事の情報を隠すように置いた様にしか見えません。 心にやましい処がなければ晴天白日堂々と不祥事こそ目立つ位置に情報公開されねばなりません、 否、例えやましい処が有ろうと行政内の自浄作用を以て公明正大に余計目立つべく設置されなければなりません。 其れが日本政府の求める「アカウンタビリティ」と言うものです。

出入りの一般市民、即ち来館者に何の説明も無いのも問題と思われます。 よんどころ無い事情無しには公立図書館は入館料を徴収してはならない所、 上の「経済的視点」項目に述べた如く浜松市博物館は特別に条例に仍って入館料を徴収しています。 據無い事情が那辺に有るかは不明ですが、此の入館料が備品購入の一部となってもいるでしょう。 然うであれば、紛失の収蔵品に関する説明、紛失の経緯、今後の対応、等、来館者には説明有って然るべきでしょう。 個別に対話する必要は有りません、事情をお得意の書類にして印刷、配布すれば済むのです。

収蔵品については管理は勿論、収蔵品其の物も全てデジタルアーカイブ化すべきです。 まさかことに当たって経費が足りないとでも言う様な考えを持っているとは思いませんが、若し然う言うのならば、其れは丸投げの腹積もりであると言えます。 本業たる業務を丸投げで済ませて宜しい訳もなく、勿論自らの手で実行するのであって、出来なければ上述したプログラムを書けない銀行員と一緒です。 公共事業として税金を投入されているから没落を免れる分だけ、銀行員よりは増しな環境だと思うべきでしょう。 浜松市博物館が如何にインターネットへの情報提供を厭おうとも、今や3Dデータの作成法さえインターネットは厭うことなく差別することなく誰にでも手軽に入手可能にしてくれます。 従って自らデジタルアーカイブ化関連の技術を習得するのに敷居は全く高くありません。 博物館法に何と書いてあったか、今一度見返せば、一般公衆に供する技術を身につけるのは博物館職員、学芸員として必須です。 此れを放棄すれば博物館法立法の精神に違背していることになるのです。

日本国家の法令と浜松市条例には其処に例えば入館料の無料と有料に代表される抔の齟齬が見られ、 中間に板挟みになる現場としては難しい運営局面もあるでしょう。 それを惟れば職員諸氏の苦慮も慮られなくも有りませんが、常に原点に立ち返って、拠って立つ立法を鑑み、自らの姿勢を律する必要があります。 自らの存在が法に準じたものである以上、遵法は必須にて、違背は自らの存立基盤を自らの手で打ち零す行為に相違有りません。

紛失にしても盗難にしても、全くもって正面切った管理不行届にて、 公開されている「浜松市行政組織」を見れば文化振興担当部長、文化財課課長、博物館館長の責任は免れ得ません。 丸で沙汰闇を待っているかの様に関連機関に動きが見られないのは誠に残念です。 アカウンタビリティの適切な運用が為されないことを以て直ちに立法に違背するものでは有りませんが、 決して博物館法の立法の精神に叶うものでは無いでしょう。

結言

若し本事件が盗難であり、検品周期を心得た者の犯行と言う最悪の事態を想定する時、既に事件勃発から一年と半年、 例え今から警察が介入しても如何にも真相が遠いものとなるのは致し方有りません。 対応の遅きが些か度を過ぎています。 若し紛失であれば尚事態は深刻かも知れません。 盗難であれば市中に流通し、孰れ元の鞘に戻ることも珍しいことではないからです。 曖昧模糊とした中に誤って焼却でもされていれば二度と元には戻りません。 其れでも本記事のタイトルが「浜松市博物館収蔵品紛失事件」から「浜松市博物館収蔵品盗難事件」へと変更されぬ様、祈るのです。 従ってこそ、例え不測の事態でも一般公衆に供出出来る体制を整えて欲しく思うのです。 市井の研究者として切に願うのです。

旧高山家住宅(蜆塚公園 2016年2月26日撮影)
旧高山家住宅(蜆塚公園 2016年2月26日撮影)

本事件に於いて、紛失にしろ盗難にしろ、孰れにせよ失われた貴重な収蔵品と言う事態を通じて、様々深刻な事態が露呈された旨を本記事に著しました。 しかし決して、当局は自浄作用を以て対応せよ、責任を厳しく問え、と糾弾するものでは有りません。 だからと言って市財政から見れば誤差程度の損失に目くじらを立てるなと主張するものでも有りませんし、 冷めた目で、所詮無名性行政とはそんなもの、と言い捨てるものでも有りません。 また世の中大凡此の様なものと恬澹と世捨て人を気取るものでも有りません。 何よりも旧態依然たる体制に警鐘を鳴らしたく思うのです。

現今日本国家の衰勢は国民誰もが承知している処です。 構造的な問題であって如何ともし難いのは了解しますが、只に凋落を指を咥えて見ていることは出来得るならば避けたいものです。 様々な問題点を孕む今回の事件を糧に果たして浜松市行政が旧態依然たる体制に切り込めるのか否か、 期待もし、注目して待ちたいと思います。

追記(2022年3月28日)

続報記事まとめ

本事件に関して続報が続々と一昨々日2022年3月25日より既存メディアに報じられました。 以下に列挙しましょう。

以下には比較的良好にまとまって記述され互いに補完する面もある毎日新聞と静岡新聞の記事を並列して引用します。 猶、最も詳しいのは中日新聞ですので、閲覧希望の向きは既存メディアの例によって何時迄有効か分かりませんが、 直上の報道記事一覧からリンクをお辿り下さい。

〔写真:浜松市博物館の資料紛失をおわびする(左から)鈴木一有文化財課長、中村公彦文化振興担当部長、望月喜夫調達課長=浜松市役所で2022年3月25日午後2時4分、福沢光一撮影〕
 浜松市は25日、「紛失した」と2021年11月に発表していた重要物品資料である江戸時代の浜松城二の丸絵図(購入額206万円)について、収蔵していた市博物館(中区蜆塚4)が市調達課による18年度の物品検査で故意に別の図を示し、組織ぐるみで紛失を隠蔽(いんぺい)していたことを発表した。
 会見した中村公彦・文化振興担当部長ら幹部3人によると、博物館は購入額200万円以上の重要物品資料が6点あり、3年に1度、調達課が現物を確認している。担当職員は少なくとも18年度の物品検査で浜松城二の丸絵図とは別の図の箱を見せ、紛失していることをごまかし、館長ら上司2人も容認していた。同職員は「紛失を認識しており、何か対応をしないとならないと思った」などと釈明している。
 21年度の物品検査で紛失が判明。同絵図以外に、紛失したと発表した5点のうち、東海道名所図会1組(12万円)は発見したが、遠州五千石御替地図(川東領、72万1000円)など計4点(計約150万円)の行方は分からない。
 収蔵庫の鍵の保管場所は博物館職員以外は知ることは難しい。博物館は誰が鍵を使ったか記録していなかった。
 市は21年12月、一連の資料紛失について浜松中央署に連絡したが、被害届は出していない。中村担当部長は「資料管理の不徹底、閉鎖的な組織風土、職員の公務員倫理の意識不足などが原因」と謝罪した。【福沢光一】
毎日新聞 2022/3/26 10:00
 浜松市博物館(中区)が収蔵資料6点を紛失した問題で、市は25日、再調査の結果、このうちの1点が2021年12月に見つかったと発表した。一方、現在も所在不明の残り5点のうちの1点は遅くとも18年時点で紛失の事実が判明していたにもかかわらず、担当職員が紛失していないかのように偽り、確認検査をすり抜けていたと明らかにした。当時の上司や館長を含め、少なくとも3人が紛失を把握していた。
〔写真:会見で謝罪する中村公彦文化振興担当部長(中央)ら浜松市幹部=25日午後、市役所〕
 18年に紛失事実を偽ったのは「浜松城二の丸絵図」。市が1995年に206万円で古美術商から購入した。市によると、取得価格200万円以上の資料は原則として3年に1度、調達課が「重要物品」の所在を現地で確認する。18年の調査時は担当者が別の絵図が入った箱を示し、二の丸絵図が入っているかのように説明したという。
 担当者が示した箱と台帳に貼られた箱の写真を調査課職員が照合した際、写真は別の資料の箱だったが、調査に当たった職員は箱の中身までは確認していなかった。
 現時点で、誤った写真が台帳に載った経緯や、すり抜けを企図した理由、18年以前の調査の対応状況などは不明。市は遅くとも11年には同絵図が紛失していたとみている。
 同日の記者会見で中村公彦文化振興担当部長は、組織的に紛失の隠蔽(いんぺい)を図っていたかについては明言を避けた。さらに詳しい調査を行うという。
 再調査で見つかった1点は「東海道名所図会」(購入金額12万円)。同館収蔵の別資料の中に混在していたという。未発見の5点の購入総額は357万円に上る。
静岡新聞 2022.3.26

本記事配信時よりアップデートされた情報を各報道にまとめれば以下の如くなるでしょう。

  1. 紛失収蔵品6点の内「東海道名所図会」1点は別資料に混在していたのが見付かったが、紛失公表の他の5点は紛失の経緯、時期の特定はされていない。
  2. 購入額200万円以上の収蔵品は「重要物品」に指定され、市調達課職員が3年に1度実施する現物確認の対象となる、浜松市博物館には6点存在する内の一つが「浜松城二の丸絵図」である。
  3. 風呂敷保管の絵図3点の紛失は平成23年(2011年)に、平成22年(2010年)から30年(2018年)に今回紛失の6点を含む管理を担当していた担当職員に認識されていた。
  4. 平成30年(2018年)度実施備品調査で「浜松城二の丸絵図」存在が虚偽報告されていた
  5. 事件発覚隠蔽の為に「重要物品」検査用専用管理台帳が偽造されていた。
  6. 調達課の物品検査(現物確認)は平成22年(2010年)、平成27年(2015年)にも実施したものの、検査結果記載書類の保管期限切れに因り結果確認不能である。
  7. 紛失発見の職員、其の上長、博物館長は今回の収蔵品紛失事件を隠しおおせると考えていた。
  8. 調達課の現物確認も大凡好い加減であり、第三者機関としては機能していない仲間内調査に過ぎなかった。
  9. 収蔵(品保管)庫の「鍵」の保管場所情報は浜松市博物館職員以外が得るのは困難である。
  10. 浜松市博物館は収蔵庫の「鍵」の使用記録を取っていない。
  11. 浜松市は21年12月に今回の収蔵品紛失事件を浜松中央警察署に連絡済みであるものの被害届は未提出である。
  12. スポークスマンとして文化財課課長から上長の文化振興担当部長にエスカレーションし、謝罪要員として調達課長が増えた。
  13. 謝罪三人の上に位置する市長、市民文教委員会の市議会議員など選良の言及は無く、浜松市自治体として損害金額なりの認識に留まっている。

浜松市博物館組織の現状把握

先ず喜ぶべきは上の箇条書き1番から「東海道名所図会」が発見されたことでしょう。 しかし同時に此れは浜松市博物館の収蔵品管理の杜撰さも露わにする所となりました。 新聞メディアに迄公表したのは疑いなく紛失と捉えていたからで、 其れが別資料に混在していたのであれば、収蔵品の有無さえも把握出来ていない事実が明確となるのです。 従ってことの経緯や事実が明白になる処ではなく、紛失事件は益々闇に包まれてしまいました。 「紛失公表の他の5点は紛失の経緯、時期の特定はされていない」のであって、 盗難か否かさえ未だ判然としておらず、11番に有る様に警察へ然るべき訴えも儘ならず、紛失事件としては一歩も進展していません。

新訂 東海道名所図会

次に一般に知られる所となったのが収蔵品の大まかな価値分類で、 16万点に及ぶ収蔵品全体を便宜上、一旦「一般」収蔵品としてみれば、 中にも上述もした「備品」と称す「1年以上その形状を変えることなく使用し、かつ、 保存に耐え得る物で1個又は1組につき取得価額又は評価価額が2万円以上のもの」が286件を数え、 此の2種類に今回、新たに「備品」中にも「重要物品」と称す項目が加わり、ついては、 「購入額が200万円以上で、浜松市財務部調達課所属の職員が3年に1度実施する現物確認である”物品検査”を受けるべき収蔵品」で、 6点を数えるものです。 すると、紛失収蔵品でも「重要物品」に相当するのは購入額206万円の「浜松城二の丸絵図」のみで、他5点は「備品」相当ではあるものの、 浜松市財務部調達課の職員が原則3年に1度実施する物品検査の対象となってはいないのであって、 今回「浜松城二の丸絵図」が紛失収蔵品に含まれていなければ、事件発覚の可能性も薄かったものと考えられます。

又、此れ等分類については此の様な事態に因り一般に知られるのではなく、webサイトに掲載しておかれねばならない事項であるのは言う迄も有りません。 今回、博物館の財務諸表さえ不明でしたが、公金の使途の一つであればwebサイト記載は必須です。 此れ以上の分類が有れば加えて記載されれば猶宜しいでしょう。 こんなものは説明責任アカウンタビリティ以前の一般常識の範疇です。 今回、浜松市博物館が一般常識さえ有しないちゃらんぽらんな組織であるのが白日の下に晒されましたから現時点で無理からぬことですが、改善は必須です。 浜松市博物館がちゃらんぽらんであるのは説明も面倒にて、上の箇条書きを幾つか抜粋すれば 何人なんびとにも異論は出ないでしょう。

扨、次に残念ながら、上の箇条書きからは違法な行為も発覚してしまった様子が伝わります。 紛失事件の本質からは外れても猶、既存メディアなどには丁度宜しい飯の種となり得る類の情報ですから関心も高くなるのは致し方有りません。 先ず「背任」です。 自らの社会的評判、地位を脅かされない為と言う利益を目論み、職権を利用して浜松市博物館、浜松市役所、浜松市民に損害を与えたことは立派な背任罪でしょう。 次に、箇条書き5番に「事件発覚隠蔽の為に”重要物品”検査用専用管理台帳が偽造されていた」とした通り「公文書偽造」です。 此れは刑法第155条に規定されている立派な犯罪です。 此れは見解に仍っては単に「窃盗」や「横領」より罪深いでしょう。 喰うに困って、否、博打に注ぎ込んで困った挙句であってさえ、其れを理由に収蔵品に手を出して売って金にしました、と言うよりも審判者の心証は悪いでしょう。 たかだか浜松市の公務員なんぞと言うはした役に其れ程しがみ付く必要があったのでしょうか。 其れ共、絶対に公にはならないと言う何処にも根拠のない自らにばかり都合の宜しくなる様な妄信薬を嚥下でもしていたのでしょうか。 愚かです。憐れです。 読者は考えても見て下さい、自らが盗んだのなら兎も角、言うなれば紛失を発見した功労者であって、単に「なくなりました」と報告すれば宜しい話では有りませんか。 桜の木を切ったのは自分でございます、と訴えるより遥かに簡単です。 責任の追求に恐怖を感じるのは百歩譲って分かりはしますが、自動車を運転していて図らずも通行者を傷付けてしまった際に救助せずに轢き逃げてしまうのと一般です。 一般人ならば、気が触れているか、泥酔でもしていない限り、被害者への心遣いを尽くすものです。 7番に箇条書きした様に少なくとも大の大人三人ですが、寄っても文殊の知恵処か、 単なる管理責任で済み、2022年3月25日の謝罪会見で頭を下げた上長連中の責任でさえあるものを、露見を恐れて嘘を重ねるなど幼稚にも程が有ります。 此の詰まらなく下らない件に関しては紙幅と時間の無駄なので此れ以上言及せず既存のメディアに譲りますが、 斯う表現するしかない無知蒙昧故に大それた犯罪を犯してしまった此の気の毒な連中は、 多少人より遅れているであろう痛々しさに免じて何とか大目に見て貰える様で有ればとさえ思います。

哀れな子羊の出現は何も本人達だけの責任では有りません。 少なくとも大の大人三人、紛失発見の職員、其の直接の上長、博物館々長が揃って犯罪を犯してでも隠蔽した方が割に合うと考えた状況下に有ったのは否めません。 此の考えに至らせる様なちゃらんぽらんな状態に文化財課組織が置かれていたことこそが問題です。 此処数年来定期的に浜松市博物館に通う身に取っても、今誰がトップなのか分からぬ如く数年毎、定期的に入れ替えられる、 当の浜松市博物館々長の一人この為体で有るとすれば、唯一人に帰着するに非ずして、ちゃらんぽらんは絶対的方針だとして申し送りされていると考えられても仕方ないくらいのものです。 収蔵品管理処か組織全体の管理が杜撰な状況下に浜松市博物館は置かれていたと充分に考えられる今回の事態でしょう。 杜撰な管理を目の当たりにすれば、何某か問題が有っても露呈を免れるものと、少し弱い者は思い込むかも知れません。 紛失が盗難か否かさえ未だに判然しませんが、 若し金銭に窮した職員が居れば、目の前に人参をぶら下げられている様な状況に浜松市博物館が在ったのであって、 犯罪誘発の環境が整えられていたと考えざるを得ないでしょう。 有り態に言えば浜松市博物館は勤め人が犯罪でさえ放題の無法地帯とも市民に捉えられ兼ねないのです。 延いては殆どの一般の真面目な職員が後ろ指を指され、務め難い状況となってしまい、運営に支障を来すだろうのも大きな問題です。 箇条書き13番には未だに選良からの言及が無い旨記しましたが、流石に事の重大さを鑑みて漸く浜松市長からは本日2022年3月28日、 第三者委員会などの外部の調査機関の設置がアナウンスされたのはせめてもの救いですが、 重きは博物館の在り方、即ち文化的方面に置かれているのではなく、公務員倫理、遵法精神、違法性に置かれているのは致し方ないでしょう。

続報からは総体的に見て、配信時に遠慮しいしい書いた本記事の内容が追い付かない杜撰さと好い加減さ、徹底的に閉じられた村社会、が明るみに晒された、として宜しいでしょう。 正直本記事を書いている身にも予想外の方向に展開してしまった感が有りますが、 と言っても一般からはズレた浜松市博物館の価値観に違和感の抱かれていたのは確かにて、 「神の手」に見る如く考古学に顕在的な閉じられた村社会については2018年6月20日の記事[K4] の「待たれるIT活用」の項目にも言及しました。 考古学的村社会に関しては直接職員氏に「天竜川平野」なる名称、及び「著作権法」について苦言を呈したことも有ります。 博物館関係者でありながら博物館法に目を通していないのが窺えられれば何をか言わんや、 況してや閉じられた村社会では、殊に他法分野に於いては独自の解釈が横行するのです。

テーマ展「天竜川平野のパイオニアたち」入口(2019年5月10日撮影)
パネル「天竜川平野の形成」と「天竜川平野の旧河道」(2019年5月10日撮影)

以前、浜松市博物館では2019年の4月から3箇月間、テーマ展として「天竜川平野のパイオニアたち」が催されました。 此の際、何故テーマ展に一般的に通用しない「天竜川平野」を用いているかについて尋ねたのは、 自らも浜松を中心とする遠江国について論考をものすることの多ければ、 此の辺り一帯の平野を呼称するのに一般的な名称が存すれば何れ程宜しかろう、と思っていたからでも有ります。 手元の2019年5月24日の記録に仍れば、此の疑問に丁寧に対応してくれた職員氏には恐縮したものの、職員氏は考古学畑の人物との申し出にて、 考古学界隈では皆あの辺りをそう呼び、報告書や論文等にも其の様に書かれているとの話、 何の論文に誰が書いたのか、初出は何時であるのか、迄は問い詰めませんでしたが、 考古学界隈で用いられている一般呼称とは言えない用語を無造作にテーマ展のタイトルに付与しているのは慥かで、 其れなら其の旨を注意書きなり説明書きなりで用意するのが適当ではなかろうかと問えば、其の様にします、との回答を得て其の場は良しとしたのでした。 併せて写真パネル「天竜川平野の旧河道」が「天竜川・菊川の流れと歴史のあゆみ」内の「天竜川下流域の旧河道」図を転用したようだが許可は取っているのか尋ねれば、 許可は得ているとのことで、許可を取る際に送ってきたとの冊子現物を見せてくれて、 当局は「広く一般に周知するように利用してください」との申し出だったので、と自分に進呈を申し出られては此れを有難く頂戴したのでしたが、 処で当該エピソードは別の機会に譲るものの向坂先生の頃から博物館は著作権に緩い様であるが著作権表示のないのは如何なものか、と問うと、 ご指摘ありがとうございます、対処します、との返事を受け、此れも其の場に良しとしたのでした。 一体「著作権法」[※17] を見れば、第一章「総則」第一節「通則」の「目的」第一条に 「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、 著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」と有ります。 「著作者等の権利の保護を図」るのみに非ずして「もつて文化の発展に寄与することを目的とする」のです。 写真パネルに出典を表示してあれば閲覧者はそれで参考文献の幅を広げ、其処から研究を広げる可能性が広がるなどの便益があって、許諾を得たから宜しい、駄目の話ではないのです。 此の写真パネルの複製に気付いたのも撮影したパネルから自宅にて時間を掛けて調査を広げて、全く図版を別箇所に検出したからで有って、 此れが最初から出典の記されていれば無駄な時間を要する手間も要りません。 出典の記されない論文など有り得ないのが、著作権者の権利の保護より文化の発展に寄与するに重きを置かれている意味を全く理解していないとしか思えません。 論文では反駁の為に引用が行われるのは屡々なのは周知でしょう。 批判的論評を受けることこそ著作権者の利益となり、延いては保護にも繋がるのであるとの論理の展開も有るでしょうが、何処かのお花畑のお話だけにないのは確かです。 加えて著作権者の保護の為だけならば例えば第五款「著作権の制限」に於ける第三十一条「図書館等における複製等」の項目は要りません。 此の一には「図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するため」との条件が記されている意味を認識すべきでしょう。 又、本記事にも第三十二条「引用」に基づいて出典を記した上で報道記事を引用しています。

改善策の提言

書き手の思った以上に隠蔽談義に紙幅を割いてしまいましたが、本追記の本論は此処からです。 つづめれば隠蔽などする暇が有るのならIT化を急ぎ正式な管理台帳の整備に力を注げ、という要諦にて、 杜撰な管理が発覚したからには先ず以下の二つの早急な改善が望まれます。

  • 収蔵品保管庫の鍵のスマート化に仍る実使用と管理 DデータBベースの連携
  • 全収蔵品管理台帳のデジタル化

此処では頭を下げるだけの無駄な年寄り上長迄撤去しろ、との項目は文字と時間の無駄なので含みません。 生活も有るでしょうから本人達の望み通り定年迄何事もなく勤め上げさせ公務員特設の三階建て年金を投与し続け、生き永らえさせれば宜しいでしょう。 重要なのは矢張りDXにて、本記事配信時の内容を更に具体化したデジタル利用2策です。 何となれば予算も人的リソースも削減される一方の中に改善を図るには抜本的な改革が必要で、 コロナ禍の中に劇的に推進されたデジタル化の世の中にも関わらず、 デジタル化の影も見えない浜松市博物館には効き目も大きく効果覿面であるのが容易に予想されるからです。

前者は近年では既に一般にはお馴染みのスマートキーの採用と、 此れと容易に連携可能なデータベースの構築です。 スマートキーは自動車のキーとしても住宅の鍵としても最早一般的になりました。 しかも特別誂えしなくともスマートホンを利用してソフトウェア的に実現可能です。 加えてスマートホンはネットワークに当然の如く繋がりますから使用の度毎に記録を取るのも容易です。 ネットワークはインターネットに繋がずして浜松市博物館内の DMDeMilitarized ZZoneで運用すれば宜しいでしょう。 スマートホンの認証システムを利用すれば使用者の制限も当然ながら可能です。 誰でも一旦手にすれば使用可能な物理的鍵を、更に其の管理を紙台帳するなど愚の骨頂です。 面倒で叶わないからこそ箇条書き9番の管理が施されながらも、箇条書き10番の為体に陥ったのでしょう。 出来ない手法は最初から取るべきでは有りません。 一体此処迄メリットの有るスマートキーを採用しない理由が分かりません。 何某か目論見が有って隙の多い物理鍵を採用し続けているのではないかと疑義の抱かれる程です。 入退室管理などは情報セキュリティの基本です。 保管を業務の旨とする学芸員に今後情報セキュリティは必須スキルとならなければなりません。

後者はたかだか286点の備品のみならぬ 収蔵品の管理台帳のデジタル化です。 IT屋としての個人的な意見を述べれば、100件を超えるデータの管理にはデータベース化無しには携わる気は更々起きません。 例え数10件でもデータがデジタル化されず検索不能な一覧を目視で追えと命令されれば命令者の襟首を掴むでしょう。 だから組織に属せない身でもあると自戒はするのですが、 組織に属するのに好適な人間が慢心すれば今回の事態が招かれるのにも思いを致すべきです。 此れには頃日、老人達が古文書の整理と称した驚くべき作業を目の当たりにした経験から注意点も一つ挙げておきましょう。 老人達は一つ一つ手に取っては鹿爪顔で長々と文書を眺め、得意気に何が書かれているのか読み取ろうとポーズを取って一向に作業が進んで行きません。 十年掛かるなどと嘯き、時間を掛ければ掛ける程価値の高まるものと信じ込む確信犯には開いた口が塞がりません。 データの扱いと言うものを全く心得ないサラリーマン上がりの年金生活者達なので致し方有りませんが、 一枚、二枚、文書の並び順を変えて今日は此処迄と、一部屋に纏めた段ボールに詰め込まれた文書群を後にすれば、 何時火事などの災害に遭うかも知れず見ていて不安にしかなりませんでした。 技術の拙い人間が価値判断を行う必要は更々ないのです。 例え技術的に優れた人間でも老人達の愚かな手法を取れば些か足りないと言わざるを得ないでしょう。 データの重み付けなど最初にするものでは有りません。 重み付けなどデータベースのカラムの一つに過ぎず、特に初期には変更に融通の効かせられなければならないでしょう。 此の管理台帳作成に初期に於いて必要なのは老人達に於いては顧みられてもいない出土状況の記録なのであり、 流石に博物館では此れをカラムの一つに立てない懸念は有りませんが、 例え管理台帳のデジタル化が決定して命令が下されたとしても現場では老人達の轍を踏み、デジタル化の意味を失う気がしてなりません。 先ず必要なのは手当たり次第に写真を撮ればシリアルナンバーをつけてジップロックや付箋を付けてシリアルナンバーと紐付けた災害対策の為された棚に 千切っては投げ、千切っては投げと放り込むことなのです。 一方では棚に放り込むと同時に DデータBベース にも放り込むのは言う迄も有りません。 然すれば此の放り込み作業以外は全てリモートで完了する筈です。 ネットワークを介して解読や価値判断、重み付けをすれば宜しいのですし、 進捗状況を共有する会議や必要なカラムを加える仕様変更の共同検討なども今流行りのweb会議システムを利用するのは一般では当たり前です。 写真で足らない分は月に一度でも登録作業のついでに実施すれば宜しいのです。 此の如く管理台帳を作成すれば、遠隔地へ研究者への供出も低コストで可能ですし、 其れ以前にの問い合わせて管理台帳の充実に一役買わせることも簡便、延いては一般への公開など後一手間です。 大体が16万点などDBに取っては少ないデータと言わざるを得ません。 今時ビッグテック、所謂GAFAガーファが扱うデータから見れば僅少な誤差に過ぎず、 日本のYahoo!でさえ日に数億のリクエストを軽々と捌いています。 此方も何故未だに採用されない方法で有るのかは最早七不思議の一つにしたいくらいです。 恐らくは新館に新人のキュレータがアサインされ管理台帳を作成せよとの命が下れば、 何の疑問も持たず普通に採用する手法であるのに疑いを持ち得ません。 今時結構なお足を戴いている身分の者が紙の管理台帳を指を舐め舐め繰っているのを眼前にしたら 「君は些か知能に問題があるのかね」と問われずにはおかれないでしょう。

一旦の決着

続報には如何ともし難い憂うべき状況が浮き彫りにされました。 博物館の 存在理由レーゾンデートル さえ失い兼ねない深刻な事態です。 しかし、誤解を恐れず言えば、犯人探しや責任追求など如何でも宜しいのです。 箇条書きの8番をご覧ぜよ、本記事配信時の「市行政の姿勢」項目の「浜松市行政組織(令和3年6月2日現在)」図に、 市民部の上に載る財務部の一課、調達課の現物確認も大凡好い加減で、仲間内調査に過ぎないものを第三者機関と扱っていました。 其の結果が調達課長の謝罪要員としての追加でした。 当該事項は当局に任せて自らは自らの専門業務に没頭するべきなのです。 人的リソースが不足しているのなら尚更です。 単なる紛失事件に留まらず隠蔽工作など迄明らかとなる深刻な事態となっては、博物館として先ずは基本に立ち返るしかないでしょう。 博物館とは何であるのか、答えは博物館法[※1] に有るのは論を俟ちません。 本記事配信時にもものした如く、先ず収蔵品の保全を第一に考え、 同じ重きを以て其れ等収蔵品を一般公衆の利用に供するのが博物館の基本です。

今回の紛失事件と付随する芳しからぬ失態は浜松市博物館の信用を失墜させるに充分過ぎるものです。 収蔵品の復帰は一層遠くなったどころか、他収蔵品もいよいよ其の存在さえ危ぶまれる仕儀と相成りました。 此の事態を受けては展示されている収蔵品さえ複製品レプリカと有れば、 果たして本物が確り保管されているかにさえ疑念が湧いてきます。 今回の事件に一旦の決着を付けるには全て管理台帳に記載した上で写真と共にweb上に公開するしか無いでしょう。 其れがせめてもの贖罪の第一歩となる筈です。 もともと収蔵品公開こそ博物館法の立法理念に適うものなのです。 現状博物館法から遠い所に外れてしまった浜松市博物館も少しは法に沿うものとなるでしょう。

一条の光明

難しい状況は足繁く通えば見て取って感じてもいます。 中日新聞の記事には以下引用の如く有ります。

博物館運営に詳しい名古屋大の栗田秀法教授(58)=博物館学=は、管理の大切さを説く。 館長や職員が紛失を故意に隠していたことも明らかになった。 「それが一番いけない。責任を先送りにせず、把握した時点で体制を立て直すべきだった」。 栗田さんはそう批判する一方「紛失は各地の自治体の博物館などで起きている」とも指摘する。 帳簿と現物を照合するのは管理の基本だが、所蔵品は膨大な数がある。 多くの博物館で経費削減のため、人員不足で手が回らない実情もあるという。 「管理専門の職員がいる欧米と違い、日本はすべて学芸員が行う。展示などのサービスが優先され、見えない部分は後になる。 体制自体を考えないと、再発しかねない」

身近に浜松市博物館を見ている身としては、 削減される予算に人的リソースの不足も見ており、至極尤もだと肯んじさせられます。 其処でこそ、本記事配信時にものしたDXの推進が必須となるのです。 本追記に記した具体的2策が喫緊の課題として挙げられるのです。 更には本記事配信時にも記した上に控える時代に不似合いで改革の邪魔にしかならない年配者には退いて貰い一掃する機会ともなり得ます。 今回此の様な事態を此れ幸いと招かれた浜松市博物館には此れを理由にデジタル化に不自由な年配者は退かせ、 其の分の若いネットネイティブ職員の補完の好い機会ともなったのです。 千載一遇のチャンスを逃してはなりません。

そして、此の様な状況下にもたった一つ光明が見えます。 何となれば関係村民は誰もが発覚は無いと考える、旧態依然とした村の掟の下に、今回紛失が発覚した事実です。 此れは何某か外部の力が新しく働いたとしか考えられません。 従来の村民ばかりでは先ず成し得ない劇的転回で有るのは続報に明るみに出た失態からも判然するでしょう。 此れは筋違いを好ましからぬものと思うだけではなく、 無い物は無い、と当たり前のことを当たり前に、地位の上の者に対しても主張出来る人物が博物館に加わったと見て宜しいでしょう。 若し然うで有るのならば、浜松市博物館の未来は明るくあります。 此の如き人物は変化を厭う年寄りには考えられず、従ってDXも進むでしょう。 延いては浜松市民のみならず全国の市井の研究者にも便宜を図られるものと喜ばしく思うのです。 若しや若しや、万事塞翁が馬、浜松市博物館は全国でも先端を行く情報公開の役立つ博物館として機能する可能性さえ有るのかも知れません。

金原明善生家北廊下(2019年11月15日撮影)
金原明善生家北廊下(2019年11月15日撮影)

研究者の本音を、 面倒な本物現物の管理は良しなに始末しておいておくれ、 収蔵品はネットに公開し検索可能にしておいておくれ、 適切な管理の下の本物は必要に応じて供出しておくれ、 那辺に博物館の意味があるんだろう、と言った辺りと汲み取る、如何にも勝手に見える主張は実は手前勝手な希望で有るのですが、 しかし、実現すれば、多くの研究者は態々浜松くんだりまで足を運ぶことなく収蔵品を閲覧に、研究に用立てられるようになり、 どれほど日本文化の発展に貢献するか知れぬとも思うのです。

付言

追記にアップデートされた情報では、煎じ詰めれば浜松市博物館及び浜松市役所当該担当部、関係部の杜撰さが明らかにされただけで、 組織体制の抜本的改革の契機となりはするだろうものの、結局、所在が明らかになった1点の他の5点の収蔵品は所在不明の儘です。 1点が然うであるならば、残り5点さえ博物館内の他収蔵品に紛れている可能性も高くなって来ましたが、 同時に廃棄に紛れて焼却等完全に此の世から消滅してしまった可能性も高くなりました。 売却されて闇マーケットに流通していた方が増しだと言う所以です。 今の時代、本物として有り難がって手元に置いておきたがる程度の低い好事家は年寄りばかりで、此の方面の可能性は低くなった時代では有りますが、 昔ながらの古いタイプの素封家の手にでも渡っているならば、孰れ私設博物館として公開される機会もあるものでしょう。 箇条書き3番の状況から見れば同じ風呂敷に包み保管されていた「浜松城二の丸絵図」「遠州浜名五千石図(浜名領)」と「遠州五千石御替地図(川東領)」の絵図3点は、 矢張り内部の者も勘繰る通り盗難の疑いが強いものと思われます。 絵図3点は最善の発見の次善に、孰れ復帰の可能性が高くなったものと今は寛容に思って構えておく心情も市民一般にお勧めかも知れません。

それにしても、最後に一言付け加えれば、 ようとして行衛の知れない前田正名宛「金原明善書簡」が残念でなりません。

追記(2022年6月12日)

再調査委員会の設置

本記事で扱う当該事件に関して、又候既存メディアが申し合わせた様に同じ内容の記事を配信しました。 読売新聞、中日新聞、静岡朝日テレビ、テレビ静岡、国営放送などにて、 十把一絡げにしてつづめれば、 浜松市博物館に於ける収蔵品紛失の浜松市文化財課 組織ぐるみの隠蔽工作について糾弾を行うべく外部有識者を委員とする 再調査委員会 を設置し経緯及び原因の調査を委嘱したとされます。

中に静岡新聞の2022年6月8日の記事[※18] だけは地元新聞として委員五名の肩書きを加えた氏名をも伝えており、以下の如くされています。 猶記載順は静岡新聞記事に従います。

  • 笹原恵氏(静岡大情報学部長)
  • 冨田和俊氏(博物館アドバイザー)
  • 鈴木孝裕氏(弁護士)
  • 山田夏子氏(公認会計士)
  • 山本能正氏(元県警警察官)

委員の方々には大した報酬も得られぬだろう委嘱に属性迄公開され、 法的強制力も無い提言しか許されないとは、お疲れ様と慰労するしか有りませんが、 其れさえ飽く迄、此処に当該事件として扱うのは、本記事の後半、即ち2022年3月28日の追記に扱った 浜松市文化財課組織ぐるみの隠蔽行為に過ぎません。 本記事2022年1月31日最初の公開時の紛失事件其の物に関してではないのです。 先ずは行政の対応としては致し方無い部分も有りますが、孰れにせよ必要最低限の対応でしか無いでしょう。 今月7日には既に初回の聞き取り会合を済ませ、此れを含め都合八回の非公開の会合を催し、今秋十月には、 此れは恐らくは「隠蔽事件」についてでしょう、再発防止の提言が成され、 其の後には関連職員の処罰が実施されると有りますが、此方には一向興味も湧かず、 当然ながら当方が主眼を置く紛失した収蔵品が還る保証など何処にも無いのです。

今年2022年度、来年2023年度には、当該博物館収蔵品の全点把握整理を実施すると勇ましい宣言の旨、 伝えられもしますが、此れ迄の管理とは名ばかりの杜撰さを見れば明らかな如く、 全16万点の収蔵品の把握には全く以て知見も能力もマンパワーも足りないでしょう。 従ってこそ惹起せしめられた紛失事件及び隠蔽事件で有るのにさえ気付かないとは、決定を下した者の逬る無能さです。 管掌の文化財課に押し付ければ、丸で何処ぞの専制君主が上意下達で下した軍事作戦の様なもので、 請け合っても宜しいですが既に半期を過ぎた今年を含め来年度末迄には実行不可能です。 先ず当該館職員のみならず文化財課にも全く電子化スキルは有りません。 又候不正の誘発を招くだけです。 大体が総数さえ怪しい16万点とされる収蔵品を従来、全く杜撰で適当で其の場凌ぎで胡麻菓子ごまかして来たのですから、 此れを世の中の当たり前のレベルに補正するには、其れ相応の予算を割いて、リソースを配置して、 然る後に然るべきスケジュールをガントチャートに落とし込み、其れさえも適宜融通、組み替えなければ、 当世能力の著しく不足する浜松市文化財課及び博物館に取っては達成不能の大事業です。 内製は先ず以て不可能ですので、外注するにしても明確にされた責任者がプロジェクトマネージャーとして指示するだけの能力を有していなければ、 不適切な丸投げにお茶を濁されるのは火を見るより明らかです。 そして、民間企業ならねば投入された税金は虚しく、好ましからざる事件は再び胚胎するのです。

浜松市行政は浜松市博物館収蔵品の電子台帳に依る管理を準備中とも記事連には書かれますが、 此れは本記事追記に行った此れさえ行われねば関係者に知的問題が孕む疑いが生じ兼ねない程の最低限実施すべき「改善策の提言」の半分にしかなりません。 後半分の提言で有るデジタル化するのは此の為とも言って宜しい自動化とは、労働人口減少の世の中、 削減される予算と人員を鑑みれば是非とも連携する必要が有ります。 自動化を実行せずに置いて、人が足りないなどの言い訳は最早通りません。

歯に衣着せず口さも無く批判的に本記事を追記併せてものして来ましたが、 常々、浜松市博物館からは得られるものも多く、感謝の念に堪えぬのも、二律背反ambivalentながら、 自身に憶える偽らざる気持ちです。 望むらくは、本記事などの提言など遥かに上回る浜松市博物館の対応を以て、 丸で文化の守護者たるかの様な尊厳を感じせしめられ驚愕するを以て、 此の後に続くあげつらい撤回の追記をものしてみたいものです。

追記(2022年8月31日)

既視感に襲われるが如く又候 「本記事で扱う当該事件に関して、又候既存メディアが申し合わせた様に同じ内容の記事を配信しました。 」を 追記冒頭に記さねばならぬ本事件に関しての続報が、 既存メディアに報じられたのは、2022年8月19日から20日に掛けてでした。 律儀に毎度、静岡新聞、中日新聞、SBSニュース、静岡朝日テレビ、テレビ静岡、国営放送など、 既存メディアが申し合わせて同じき内容を一斉に伝えてくれるのは先ず先ず有り難くも有りますが、 其れこそが当世既存メディアの役割でも有るのでしょう。

紛失「備品」3点発見と現状確認

例に仍って、十把一絡げにして約めてみれば、 本記事配信時に6点で有った浜松市博物館紛失「備品」の内、三点が同館の収蔵庫に見付かった、と言うものです。 五月雨式に情報が公開されますので確認の容易の為に、 先ずは遅くとも2011年には紛失していた浜松市博物館紛失「備品」6点の現状を纏めた表を以下に用意しました。

No. 品名等 購入年月日 購入金額 状況
1 東海道名所図会
1組
1984年11月29日購入 120,000円 2022年3月25日発見公表
2 伊勢暦(佐藤伊織)
のうち1冊
1987年10月3日購入 50,000円 紛失状態
3 遠州五千石御替地図
(川東領)1枚
1995年5月19日購入 721,000円 2022年8月16日発見、19日公表
4 遠州浜名五千石図
(浜名領)1枚
1995年5月19日購入 721,000円 2022年8月16日発見、19日公表
5 浜松城二の丸絵図
1枚
1995年5月19日購入 2,060,000円 2022年8月16日発見、19日公表
6 金原明善書簡
1通
2001年10月30日購入 26,250円 紛失状態
No. 品名等
購入年月日(購入金額)
2022年8月19日現在状況
1 東海道名所図会 1組
1984年11月29日購入(120,000円)
2022年3月25日発見公表
2 伊勢暦(佐藤伊織)のうち1冊
1987年10月3日購入(50,000円)
紛失状態
3 遠州五千石御替地図(川東領)1枚
1995年5月19日購入(721,000円)
2022年8月16日発見、19日公表
4 遠州浜名五千石図(浜名領)1枚
1995年5月19日購入(721,000円)
2022年8月16日発見、19日公表
5 浜松城二の丸絵図 1枚
1995年5月19日購入(2,060,000円)
2022年8月16日発見、19日公表
6 金原明善書簡 1通
2001年10月30日購入(26,250円)
紛失状態

浜松市博物館には御同慶の至りにて、様々打っ棄って置いて、取り敢えずは芽出度き進展を素直に喜びたく思います。

博物館職員の基本姿勢

浜松市博物館が今年5月から、所蔵する史料全ての総点検を実施した際に、 同館職員氏が今月8月16日に至って本来収蔵庫内の古文書コーナーに有る筈の 「遠州五千石御替地図」、「遠州浜名五千石図」、「浜松城二の丸絵図」の3点を、 約3メートル離れた民具収蔵品の精米用農具「千石どおし」の部材の間に風呂敷に包まれた儘の状態で、 特別な破損なども見られない状態で見付けた、と伝えられます。 最早いつか収蔵品整理中の職員氏が急に催して駆け出す際に地べたに置くのが憚られて、 収蔵庫を飛び出すに最寄りの民具に挟み込んで其の儘忘れてしまって戻れば他収蔵品整理にいそしんだ、 と言った情景しか浮かび得ない頭になってしまいました。 丸で自堕落な人物の家事を見るかの様で、「ゴミ屋敷」と言う語彙さえ想起させられます。

斯くも滑稽な紛失劇の疑われる事態に、しかし、 後になって数名の職員氏は焦燥し頭を悩ませ、背任や公文書偽造とされ兼ねない行為に及んでしまったのが悔やまれますが、 再調査委員会の設置された今となっては何ともし難く粛々と規定通りに処理が執行されるのでしょう。 其れよりも滑稽譚に済ましてはならないのが今回紛失「備品」3点の発見に伴い露わになった、 収蔵品の物理的管理の実態です。 此れは管理台帳の電子台帳化に仍っては浜松市博物館が抱える問題が解決不能であることを意味します。 デジタル化以前に、物体である収蔵品の物としての整理整頓が出来ていないからです。 本来、収蔵品管理台帳には保管場所が記されていて然るべきです。 記された保管場所に収蔵品が無いのならば、幾ら管理台帳や入退室管理をデジタル化しようが、皆、無用の長物です。 博物館職員諸氏は一度ひとたび 不測の事態が起これば組織上部からの圧力と相俟って、最初に自身の保身を考え、体面を保とうとするなど、何か勘違いをしているのであって、 此の如き心持ちが、上に記した文化財課課長の様な、知識以上に横柄な物言いや、要らぬ研究者然たる素行となって現れるのでしょうが、 彼等の収入の源泉たる博物館法[※1] はそんな人材を博物館職員として望んでいません。 何よりも第一に博物館職員諸氏は、本記事に何度も繰り返す様に、博物館職員としての基本、博物館法[※1] に立ち返り、収蔵品の保全を、 同じ重きを以て其れ等収蔵品を一般公衆の利用に供する使命を思い返して欲しくあります。 然すれば如何なる態度で業務に臨むべきか自ずから明らかとなり、 収蔵品は使用される度、然るべき位置に戻されるでしょう。

総収蔵品点数の正確な把握と推移情報の公開

今回明らかになった杜撰な収蔵品の物質的管理状況は、確実に浜松市博物館の信用を毀損します。 此れに因って旧家などで手元の文化財的資源、資料の寄贈を躊躇う向きが増えれば文化の存続に支障を来します。 詰まり浜松市博物館は現在、博物館法の立法理念に全く逆行しているので、 延いては文化を損壊させる方向に稼働していると言って過言では有りません。 現在、核家族化が進むなど社会状況が変化し、先祖伝来品のモチベーションが失われ気軽に廃棄され、 貴重な史料保存が難しい状況となっているに聞き及びますが、 浜松市博物館は当該状況に拍車を掛けているとも言えます。

同館は今年5月から所蔵する史料の総点検を進める中に今回の紛失収蔵品を見付け出したと伝えられますが、 少しく奇妙なのは、報じるメディアに仍って伝えられる総収蔵品点数が異なることです。 具体的には、中日新聞では「計約十六万点」とされていますし、静岡朝日テレビでは「およそ9万点」とされています。 此れは恐らくは浜松市博物館本館が約9万点を所蔵し、市内の他分館に7万点が収蔵されているのでしょう。 分館を五つと伝える既存メディアも有り、浜松市博物館webサイトに於いては、 2022年8月31日時点での分館は「蜆塚公園」を含めて以下列挙の如く六つとされていますので、 収蔵品を保管する分館は基本的には五つと数えて宜しいのでしょう。

  • 浜松市蜆塚公園(中区蜆塚四丁目)
  • 浜松市姫街道と銅鐸の歴史民俗資料館(北区細江町)
  • 浜松市水窪民俗資料館(天竜区水窪町)
  • 浜松市舞阪郷土資料館(西区舞阪町)
  • 浜松市春野歴史民俗資料館(天竜区春野町)
  • 市民ミュージアム浜北(浜北区貴布祢)

5月から開始されている当該博物館収蔵品の全点把握整理が、 本館の9万点を指すのか、分館を含めた16万点を指すのかは、既存メディア報道からは分かりません。 整理完了に2023年度を宣言していますから、伴い管理台帳の電子化が整う筈ですので、 年度扱いに言い訳の効く2024年3月末には、 言い訳の効く16万点ならぬ本館分の凡そ9万点の収蔵品点数の下一桁迄正確に数値化されるのでしょう。 此の博物館収蔵品全点数は当然公開されるべき数値です。 しかも此れを求めるに時系列に収蔵品点数に異動が有るにしろ、 然るべき管理の為されていれば、何しろ電子化された管理台帳からレコード件数を出力するだけですから 「select count(*) from master;」 とデータベースコマンドを打ち込むだけで1秒も掛からず答えが返って来ます。 博物館webサイトに於いては此の正確な数値を時系列を横軸にグラフ化して、毎月更新するべきでしょう。 数年経てば浜松市博物館の収蔵品点数の推移も見られ、 今の様な馬鹿馬鹿しくも勿体ぶった「凡そ」と言う猪口才な副詞を伴わせる必要も有りません。

分館に数えられていない浜松市地域遺産センターなどの収蔵品の取り扱いも気になる(浜松市地域遺産センター2階ラウンジから見渡す引佐町井伊谷の街並み、2020年1月18日撮影)

斯くも正確な数字が公開されれば、 以て市民の信用を勝ち得る一つの手段とも成り得ます。 寄贈した向きも「凡そ」と小賢しく括られるのではなく何万何千何百何十何点というはっきりした数字の内の、 其の一つこそが我が家の寄贈した先祖伝来の品物なのだと納得が得られるでしょう。 信頼を勝ち得る為にも数値の明確化はなされるべきなのです。 更には此れがネットに検索可能であれば猶、宜しい、 博物館が我が家のお蔵の代用を足してくれている様なもので、信頼度の向上は疑い得ず、 寄贈も円滑に進み、文化の次世代への継承も以て増進請け合いです。

僅か286件の「備品」の管理が儘ならない、 286件の内、6点が管理不行届、2点が現在も紛失状態であれば 確率的に言えば、浜松市博物館蜆塚本館の収蔵品を9万点とすれば、 割合的には、管理不行届で有るのは1,888点、紛失状態に陥っているのは629点の勘定となります。 「備品」ならぬ通常収蔵品は当然ながら疎かになろうと言う物で、数字は悪い方へ傾きます。 扨も分館は然るべき管理が実施されていると思いたいものです。 此れでは安心して浜松市行政の管轄下に有る浜松市博物館に貴重な資料を渡したくなくなるのが市民の人情です。

就いては、今回5月から開始された総点検に於いては、今回の紛失劇を鑑みれば、 無かろう筈の無い従前の紛失について、有耶無耶にされるであろうしか無いのは全く以て遺憾です。 本来は此方の方が罪が重いのであって浜松市博物館開所期の組織体制にこそ問題が有ったのでしょう。 最早責任を取らせる処か、責任の所在、否、其の以前に事態の発覚さえ闇の中にて、 問題の有る連中は役人上がりの年金生活者で悠々自適に呑気であるのを思えば、 今回処分を受けるであろう諸氏が例え自業自得にせよ気の毒にさえなります。

事態発覚から公表迄の期間について

紛失の公表は遅くとも2011年には紛失の認識されてから長く有耶無耶にされ、 2018年の物品検査に於ける組織包みの紛失隠蔽を経て、2021年の7月に紛失が発覚してからも、 公表は2021年11月29日ですから、4ヶ月間も掛かっています。 不埒の公表には何ヶ月も掛かったのに、善事たる発見の公表には発見の2022年8月16日から19日の公表迄、僅か3日、 現金なもので、では次回万一不祥事が起こった際には3日間の猶予を以て公表が可能と、 当局には心得て欲しく思います。

其れにしても本記事に当て付ける様に 「金原明善が前田正名へ宛てた書簡」が今に至るも見付からない状況は、 何某かの見えざる力が働いているのが疑われ、己の日頃の行いが疑われ、煩わしくも、鬱陶しくもあります。 浜松市行政側が、残る2点の紛失収蔵品も博物館内に存在する可能性が高くなった、 とは此れだけ管理が粗雑であれば、そりゃそうです。 しかし、盗難であれば闇マーケットを巡って孰れ市民の手元に戻ることもあろうけれども、 万一にも然うとは知らずに誤って浜松市博物館敷地内で焼却でもされていれば二度と元には戻らない、 と懸念を表したのは本記事配信時の結言に於いてでした。 発見の際には迅速な、最悪でも三日間の猶予で以ての公表を願いたく思うものです。

かたむき通信参照記事(K)
  1. 浜松城天守閣を破却したのは誰か(2019年1月26日)
  2. 遺跡に於ける大溝命名について(2017年5月20日)
  3. 日の丸弁当少考(2016年9月18日)
  4. 公開シンポジウム「静岡県と周辺地域の官衙出土文字資料と手工業」を聴いて(2018年6月20日)
参考URL(※)
  1. 博物館法(昭和二十六年法律第二百八十五号)(e-Gov法令検索)
  2. 浜松市博物館条例 昭和54年3月30日 浜松市条例第34号(条例Webアーカイブデータベース:令和3年7月19日)
  3. 浜松市博物館(浜松市:2022年1月28日)
  4. 浜松市博物館資料(備品)の紛失について(PDFファイル:市民文教委員会、文化財課:2021年12月3日)
  5. 令和3年11月~令和4年1月の委員会日程(浜松市:2022年1月28日)
  6. 委員会別名簿(令和3年5月20日現在)(浜松市:2021年5月25日)
  7. 浜松市文化遺産デジタルアーカイブ(浜松市立中央図書館)
  8. NEW 博物館所蔵資料 [3D画像](浜松市立中央図書館/浜松市文化遺産デジタルアーカイブ)
  9. 佐賀県立図書館データベースをリニューアルしました。~2万8千点以上の歴史資料画像を「パブリックドメイン」として公開~(佐賀県立図書館データベース:2019年3月25日)
  10. 図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)(e-Gov法令検索)
  11. 生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)(e-Gov法令検索)
  12. 有形文化財の所有者のための手引き(浜松市市民部文化財課)
  13. 文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)(e-Gov法令検索)
  14. 「文化財防火デーの契機となった法隆寺金堂火災」(東京消防庁)
  15. 行政評価ポータルサイト(総務省)
  16. 政策評価の在り方に関する最終報告(本文)(総務省)
  17. 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)(e-Gov法令検索)
  18. 博物館の資料紛失 再調査委が初会合 浜松市、再発防止提言へ(静岡新聞:2022年6月8日)
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