NTTドコモの思い切ったTizen(タイゼン)の採用は吉か?凶か?

携帯キャリアトップの座は変わりないものの好調とは言い難い 株式会社NTTドコモ 〔K1〕 ですが、なかなかの思い切った来年の方針が大手メディアから報じられています。 それは Tizenタイゼン) と呼ばれる基本ソフトウェアを搭載したスマートフォン を2013年に発売する検討がなされている 〔※1〕 というものです。

スマートフォンは小型コンピュータですからパソコンのWindowsやMac OSなどのように 基本ソフトウェアを必要とします。 現在主流のスマートフォンの形を作り上げたiPhoneにはiOSが搭載されていますし、 このiPhoneの座をも脅かし始めたアンドロイドスマートフォンに搭載されるのは其の名の通りAndroidです。 またマイクロソフトもモバイル時代を鑑みたスマートフォンOSを着々と準備しています。 此の状況下に新興Tizenに賭けようと言うのですからなかなかの思い切った経営判断だと思います。

Tizenとは非営利コンソーシアム TIZEN Association が開発するオープンソースソフトウェアで インテル、サムスン、ボーダフォン、 ファーウェイ(華為技術、Huawei)、SKテレコム、オレンジ(フランステレコム)、 テレフォニカ(Telefónica, S.A.)、など世界の早々たる移動体通信関連企業が メンバーとして名を連ねており、日本でも NEC、パナソニック、そしてNTTドコモも参画しているのでした。 また全米3位の携帯電話事業者Sprintの名もありますからこれを買収する ソフトバンクも無関係とは言えないものでしょう。

Tizenは二つの源流が2011年に合流して旗揚げされました。 源流の一つは MeeGoミーゴ) であり、フィンランドの電機通信機器メーカー ノキアNokia) 及び半導体製造最大手のインテル主導で作られたLinuxベースのモバイル端末用基本ソフトウェアです。 もう一つが LiMoリモ) であり、NEC、モトローラ、NTTドコモ、パナソニック、サムスン電子、ボーダフォンなどが 整備を進めて来たこれもLinuxベースの携帯電話用ミドルウエア基盤です。 この合流及びその時期が一昨年であるのは名を連ねる事業者が来るスマートフォン時代を見越して アップル社とGoogle社に独占されるのに強い危機感を抱いた現われでもあります。

Tizen Conf 2012

このTizenの評価されるべきは矢張りオープンソースで その全てが開示され衆目に晒されている部分です。 iOSはアップル社の支配下にあるのは勿論ですし、 Windowsフォンとして世に出るだろうそのOSがマイクロソフト独占なのも、 他にもBlackberryなどの基本ソフトウェアもRIM社のものとして同様です。 オープンソースのように思われるAndroidもその実、 Google社の引力圏からの脱出は不可能な状態となっており、その思惑が色濃く反映される処です。 モバイル機器の基本ソフトウェアが以上のような状況下にある中に、 開発状況も開発資源も公開されるオープンソースである Tizenは異色の存在と言っても良いでしょう。

加えて開発者向けの基本的なフレームワークにWeb標準技術及び 世界中の携帯電話事業者が参画する WAC(Wholesale Applications Communy) の技術が採用されているのも高く評価されるべきです。 Web標準を採用したのは先行するモバイル端末用基本ソフトウェアが既に 開発者を囲い込む状況となっている中に切り込む手法とされもする 〔※2〕 ようですが、的を得ていたように思われます。 HTML5にフォーカスされた開発環境に挙って開発者が参入する可能性も高いものでしょう。

一時寡占状態となったマイクロソフト社のWebブラウザである IE(インターネットエクスプローラー) がその独善的な仕様でその後インターネット発展の足枷となり パソコン市場に支配的なOSのWindows標準搭載ながら徐々にシェアを減らしていることを思えば、 営利企業一社に偏った仕様は世界中の人々に活用される際に危惧を抱かざるを得ません。 世界の標準たるべく議論が公開される中で仕様が決定される方式こそ望ましいものです。

ドコモ社は一時期日本の携帯キャリア界にそのガリバーとしての存在感を示したのが災いし、 ユーザー視点が持てない企業となり、 大分改善されつつはあるものの相変わらず頓珍漢でユーザーに傍迷惑な NOTTV 〔K2〕 やアマゾンに憧れた通販事業 〔K3〕 に手を出したりしてそれがために大幅な下方修正を余儀なくされ 剰えそれをiPhone一つに帰せしめんと画策 〔K1〕 します。

特にアップル社のiPhone憎しの思いは傍から見ていても相当の、 怨念とも言えるものが感じられます。 その思いは自社スマートフォンに採用しながらも自社の影響力の及び難い Androidに対しても軽重はあると言えども拭い切れないものがあるでしょう。 而して今回の事態が惹起せしめられたのは容易に想像のつく処です。

しかしこの退っ引きならない状況から取った苦肉の策が 案外功を奏すかも知れぬ、とも思わせられるのです。 それは偏にTizenの上に挙げたような素性の良さからなのです。 オープンであることは今の時代に強力な武器となります。 従来のプロプライエタリな世界観が支配する中に覇を唱えたマイクロソフトは アップル社にその時価総額の記録を破られ 〔K4〕 Google社に迫られ 〔K5〕 一時的には赤字の状態 〔K6〕 迄招いてしまいました。 逆にサーバーソフトウェアはIBMなどビッグブルーと言われたコンピュータ業界の巨人のものから オープンソースが主体に世の中は完全に切り替わりました。 人々の生活に重要な位置付けを占めるようななったモバイル端末が 営利企業一社の思惑に左右されて良い筈もないのです。 モバイル端末の基本ソフトウェアのオープンソース化は時代に棹差すものでしょう。

但し懸念もないではありません。 それは先ずこのTizenにサムスン社の影響力が大きいように見えることです。 Android OSを搭載した同社のGALAXYシリーズは今や世界一のシェアを占めるそうです。 〔※3〕 これが好い方向に働けばTizenの普及が図られ進歩、展開もあり好循環を為すでしょうが、 一度Androidの如きサムスン社の影響力ばかりが突出すれば オープンからは遠ざかる事態ともなるからです。 現時点でもTizenのソフトウェア開発環境はサムスン関連の プロプライエタリソフトウェアでありもするのでした。

サムスン社の影響力に関してはその他錚々たるTizen参画企業に奮起して貰う必要がありますし、 それこそ凋落が言われて久しい日本の電機メーカー NECやパナソニックにも活躍があればこれ等を以て抑制が効き バランスの取れた体勢が目指されるのを期待すべきでしょう。

更にもう一点の懸念があります。 それはNTTドコモの姿勢です。 今回は選択肢のない状態での方針ですが、 未だ以て携帯キャリア本来の役割を越えて独自サービスをスマートフォンに載せようとする思惑です。 この姿勢こそがドコモの業績の下方修正を強いた筈なのですが、 まだi-modeの成功の夢、諦めきれぬ意図にはユーザーとしては呆れざるを得ないでしょう。 通販事業やNOTTVを思うままに展開すべく余儀なくされた道は 図らずも世の動静に順行するものとなりましたが、 其処でまた自社業績を貶めた独自サービスに拘れば 評価さるべきTizenの価値をも落さしめ、 それは厳に避けられるべき事態であらねばなりません。

使用写真
  1. 12050373( photo credit: thp4 via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. ドコモ800億円の下方修正はiPhone5の所為にあらず(2012年10月27日)
  2. 哀れNOTTV大失敗~4ヶ月経過して契約数は目標の1/3以下(2012年8月6日)
  3. NTTドコモが通販事業本格進出で目指すアマゾンコムとの企業体質の比較(2012年7月13日)
  4. アップル社によるマイクロソフト社時価総額世界一記録の更新を見る(2012年8月21日)
  5. Google時価総額Microsoft超え~ポストPC時代対応で差の付くIT上位3社(2012年10月2日)
  6. マイクロソフト社が広告事業に足を取られまさかの赤字転落(2012年7月20日)
参考URL(※)
  1. NTTドコモ Tizen(タイゼン)を搭載したスマートフォンの発売を検討 読売新聞(すまほん!!:2012年12月30日)
  2. TizenはスマートフォンOSとしては後発だが数千万台の市場、HTML5アプリのターゲットとして有望か(ITジャーナリスト星暁雄の"情報論"ノート:2012年6月9日)
  3. サムスン、スマホの機種別ランキングで世界一に 「Galaxy S III」の7~9月出荷台数「iPhone 4S」を抜く(JB Press:2012年11月12日)

追記 (2013年7月5日)
Tizenのプロジェクトがキャンセルされた旨伝えられた同日にNTTドコモ社長のインタビューが知らず知らず悲哀を帯びます。 Tizenがチグハグ施策迷走ドコモの象徴となる断ち切れぬ負の連鎖 を配信しました。

スポンサー
スポンサー