NHKマイルカップは2月ほど以前の2012年5月6日に開催、 1番人気のカレンブラックヒルが人気そのままにGI初制覇したのは からくり手帖の2012年5月6日の記事 第17回NHKマイルカップはカレンブラックヒルが騎手、調教師と共にGI初制覇 に伝えられる、 その影には残念な違反と事故が有りました。
岩田康誠騎乗のマウントシャスタが最後の直線で内側に斜行、 走行妨害された シゲルスダチ は転倒し騎乗の 後藤浩輝 騎手は頸椎骨折の重傷を負ってしまったのです。 YouTubeなどには その時の動画 が残されていますので、此の下に埋め込み置きます。。 特に後ろからのカメラが分かり易いでしょう。 しかし魔が差したのでしょうか? 馬群が詰まっている中、些か考えられないほどの岩田騎手の斜行です。
このため岩田騎手は5月12日から20日までの 開催日4日間の騎乗停止処分を科されました。 その際に起きたドラマこそ5月20日に開催された第73回優駿牝馬、オークスでのことでした。 詳細はかたむき通信2012年5月21日の記事 ジェンティルドンナ圧巻オークスで5馬身差を大魔神馬ヴィルシーナにつけ2冠達成 に記す処です。 岩田騎手は違反罰則から立ち直りその翌週には、かたむき通信2012年5月28日の記事 ディープブリランテが日本ダービー制覇~ディープインパクト産駒大暴れ に記すように第79回東京優駿をディープブリランテ騎乗で制しています。
しかしこれとは別にNHKマイルカップではドラマが起こっていたのでした。 それは岩田騎手の斜行で転倒したシゲルスダチと落馬した後藤浩輝騎手の間に起こっていたのです。 通常競馬では闘争本能を剥き出しにしたサラブレッドは 無傷であれば騎手が落ちようが他馬に負けまいとレースを走り切ろうとします。 しかしシゲルスダチは違いました。 落馬骨折して動けない後藤騎手の周りを寄り添うように回っていたのです。 この際の様子はネットでも評判となり、その様子など がんばれアルビ、レッツゴー競馬さんの2012年5月7日の記事 シゲルスダチが印象的だった、NHKマイルC回顧 (2019年5月28日現在webサイト閉鎖確認)に詳しく紹介されています。
このシゲルスダチの振る舞いに キーストン を想い出させると言う声がネット上を飛び交いました。 キーストンは1965年第76回日本ダービーを勝ち取るも 悲運の超特急 と呼ばれその翌々年1967年には命を落としている名馬です。
当時騎手になって5年経つも、 25歳で代役ばかりの 山本正司 騎手がキーストンに始めて出会った時の印象は 小柄で性格は大人しく印象に残らないものでした。 しかしお互いに期待されない者同士惹かれ合うものが有ったのか長く一緒に過ごす内、 山本騎手は微かな手応えを感じてもいました。
デビュー戦でそれは確信に変わりました。 函館オープン芝1,000Mをキーストンは10馬身差と言う圧倒的な差で制してみせたのです。 この圧勝を皮切りに無傷の6連勝を成し遂げ いつしかキーストンは日本ダービー最有力候補となっていました。 どうにも真面目一方な馬で一生懸命走るキーストンの 行きたい!行きたい!と逸る気持ちを宥めるのが 山本騎手の仕事とも言えたそうです。
しかし初のGI挑戦となった皐月賞では14着とまさかの惨敗、 芝2,000Mの長い距離に因るスタミナ切れがその原因とされますが、 これに因って水面下でキーストン騎手変更の話しが進んでしまったのでした。 ここで嘗ての師匠武田調教師が救世主となり馬主を説得、 絆を保って貰った両者の喜びは如何許りだったでしょう。
この期待に両者は見事応えて見せます。 1965年5月30日第76回東京優駿、即ち日本ダービーは 皐月賞より長い2,400Mの距離です。 しかしキーストンと山本はこれを制し競走馬の頂点に立ったのでした。
それでもその運命の日はやって来ました。 1967年12月17日阪神競馬場第15回阪神大賞典です。 その日もキーストンはスタートと共に飛び出し先行しました。 施行距離は芝3,100M、2周目最後の直線に入り事故は起こりました。
落馬…頭から落ちた山本騎手は脳震盪で意識を失い、 キーストン左前足は完全に骨折、折れた脚はようやく皮膚だけで繋がっている状態です。 最早サラブレッドに取っては死を意味する運命の重傷でした。 通常このような時、馬は激痛で其の場をぐるぐる回るような行動を取ります。 しかしキーストンは違いました。
三本の脚だけで静かに山本騎手に歩み寄ったのです。 意識を取り戻した山本は全てを把握しました。 満員の静寂につつまれた阪神競馬場で山本騎手は 自分の運命を悟っているようなキーストンと長い時間 永遠の別れを感じながら寄り添ったのでした。
山本騎手は再び意識を失いました。 救務室で意識を再び取り戻すとテレビでは アナウンサーが悲しげにキーストンの死を語っていました。 山本騎手は数十年経っても12月17日は命日、 向こうへ行ったら最初にキーストンに会いたいと語ります…。
時は現代に戻って、 シゲルスダチはしかし元気でした。 精神的な後遺症もないようで順調に乗り込まれ馬体もボリュームが出て来たとのことです。
シゲルスダチは今週末2012年7月1日に中京競馬場で開催のGIII競走 第48回CBC賞 に出走予定です。 からくり手帖2012年3月26日記事 カレンチャン優勝の高松宮記念開催中京競馬場のグランドオープンで活躍のSKE48松井玲奈さん、AKB48篠田麻里子さん に紹介される新中京競馬場で、 古馬相手にどんな活躍を見せてくれるでしょうか、楽しみです。
追記(2012年7月1日)
シゲルスダチも出走した第48回CBC賞の結果が出ましたので記事を起こしました。 シゲルスダチCBC賞はコースレコードの大魔神馬マジンプロスパーに敗れる
追記(2014年11月10日)
シゲルスダチが息を引き取りました。 昨日2014年11月9日、生涯成績は34戦3勝の5歳の古馬となっていました。 奥多摩ステークスにてゴール直前の脱臼の回復が見込めない為の安楽死処分だそうです。 ちょうどレース解説は運命の後藤騎手にて見るからに重い故障であるにも関わらず此れも常の馬と異なり ゴール後も二度と振り落としはしまいとばかりに止まることなく先ずは鞍上を無事に下ろしてから馬運車で運ばれたとのことです。 以下に関連記事のリンクを貼り置きます。 後藤騎手の勝ち負けは関係なくみんなを笑顔にさせ幸せな気分にしてくれた馬であったとの回想が胸に迫ります。
追記(2015年2月27日)
シゲルスダチを悼む追記から僅か数ヵ月後、再び追悼の意を述べる追記をものするなど思いも寄りませんでした。 第17回NHKマイルカップにシゲルスダチの鞍上に在って遂数ヶ月前にはシゲルスダチの死に回想を寄せた 後藤浩輝 騎手其の人が帰らぬ人となって[※1] しまいました。 多くのメディアが自宅で首を吊って自殺した旨を伝えますが 故人を悼む各界からの哀悼の多く寄せられるには矢張り併せて信じられないとの言が多く[※2] あります。 第17回NHKマイルカップでの落馬による頸椎骨折の重傷からも復帰を果たし、 昨年2014年4月の落馬に因る再びの頚椎骨折からも復帰、 更には今月にも頸椎捻挫に陥るも翌日には勝利を上げるなど不死鳥の如き活躍もあり、 此処数日も普段と変わらぬ様子を見せ、未だ40歳の若さともあって悲しみと驚きの声が入り混じっています。 日本中央競馬会来月29日迄レース開催競馬場に献花台と記帳台を設ける旨を発表しました。
使用写真- シゲルスダチ 返し馬( photo credit: arima0208 via Flickr cc)
- 後藤浩輝騎手、自宅で首つり自殺 何が…前日明るくFB更新(スポニチ Sponichi Annex 競馬:2015年2月27日)
- 後藤騎手死去 篠田麻里子ら偲ぶ(朝日新聞デジタル:2015年2月27日:2019年5月28日現在記事削除確認)