オバマ大統領が登場時推進を図った原子力発電も彼が再選するにせよしないにせよ、 孰れ米国は方針の転換を図らざるを得ない状況です。 勿論、去年2012年未曾有の大震災に伴い発生した 福島原発問題が影響を与えているのは言う迄も有りませんし、 更には圧倒的と思われた経済的優位性も失われている[※1] からです。
脱原発へと米国が舵を切らざるを得ない一つの理由としての 経済的理由は特に米国では顕著です。 それはシェールガスの実用化と価格低減がエネルギー価格を急速に押し下げているからです。 更に福島原発問題は今迄我々が目を覆って来た、原子力発電の運用のみに留まらぬコストが 莫大なものであることを明確に白日の下に晒したのでした。 このエネルギー価格の下落と原発のトータルコストの認識から 原発に於いてその発言が重きを成すべき 日本の原子力発電所の約半数が採用する沸騰水型原子炉を開発した 当のGE(ゼネラル・エレクトリック)社のジェフ・イメルトCEO(最高経営責任者) 自らに経済的理由からは原発を採用する意味がない、と言わしめもする[K1・※2] のでした。
経済的優位性を原発が失うと雖も代替エネルギーが必要電力を賄い切れなければ話しにはなりません。 しかし此処でも所謂専門家の予測していた代替エネルギーの成長が 全くアテにならないことを示すかのように再生可能エネルギーの発電力は 著しい成長を遂げているのでした。 国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が2000年に作成した予測データが 全く的外れで、代替エネルギーを貶めるためではないかと勘繰れるほどのものであったことを 米国のNGO団体 Fresh Energy が指摘[※3] しているのです。 以下に表にまとめて見ましょう。
エネルギー種類 | 専門家予想 | 実際 |
---|---|---|
水力発電を除く 再生可能エネルギー | 2020年全体の3%以下 | 2008年全体の3%超 |
太陽光発電 | 2020年発電量7.6GW | 2011年発電量69.7GW |
風力発電 | 2010年発電量30GW | 2010年発電量200GW |
此処に挙げられた数値を見れば、 如何に再生可能エネルギーの可能性が低く見られていたかが分かりますし、 更には実際の値は数年前のものでこれ以降は 加速度的に予想値とは懸け離れた数値を示し始めているのです。
2000年当時の所謂専門家の意図は図りかねますが、 この予測値を大きく覆す努力は彼等とは関わり無く連綿と続けられていました。 そのひとつには風力発電に於ける風力タービンの大型化が挙げられる[※4] でしょう。 各方面の実際に手を動かす人々の刻苦勉励が再生可能エネルギーのコストを 従来の電力源と競合できる迄に押し下げているのでした。
しかし、こと日本に於いては大きな問題が潜在し、 それは近い将来表面化することになるでしょう。 その問題とは電力の消費者価格です。
寡占状況は価格競争力を生み出しません。 公共事業として仕方の内面もありますが、 何時迄も現状に甘んじる訳にもいかないでしょう。 独占は恣意的な資源の割り振りで、 現状原発にコスト競争力が発揮出来るように配分されており、 例えばLNG(液化天然ガス)利用には最適化されていないために 例え米国から価格競争力に優れたシェールガスの導入がなっても 消費者価格に還元されない構造を内包している[K2] からです。
この寡占に因る問題は福島以降強く認識されもし、 まだまだ充分ではないながらも規制緩和が進んで来ました。 この緩和、電力自由化をを突破口にする動きも出て来ています。
例えば東京駅の目の前に立つ 新丸ビル は東京電力を飛び越え青森県の風力発電所から電力の供給を受けています。 10年前に部分的自由化がなされた電力業界に既存の電力会社にあらぬ独立系事業者を ビル所有者の三菱地所が選択した訳ですが、 このような契約をなした大口顧客は5%にも満たない割合でした。 新丸ビルの契約が合法なるも異例[※5] と言われる所以です。
其処には矢張り既存電力会社の強い抵抗がありました。 自由化は不十分であったのです。 しかしこれも福島原発問題の影響で既存電力会社の影響力は弱まりつつあり、 今こそ確りとして自由化へ向け歩を進めるべき時です。 これにより高止まりの電力消費者コストが低減されるのは確かです。
この自由化が進んでも問題は待ち構えています。 この問題の種が仕込まれたのはつい最近のことです。 それは電力自由化への一里塚として幾分は 目を瞑らなければいけないのかも知れません。 その問題とは 再生可能エネルギーの固定価格買取制度 に於ける 買取価格及び期間 です。
電気事業者にこれに定められた価格で定められた期間、買い取ることを義務付けられ、 その買取費用は消費者がそれぞれの使用量に応じて負担する賦課金システムとなっていますから この元の設定価格が高ければ電力業界の寡占が解けても 電力の消費者価格は高止まりしたままともなり兼ねません。 事業者の不参入を恐れたか、所轄官庁はこれを高く、長く設定してしまった[K3] のでした。 ネット上にも多くの論者が異議を唱えたのは記憶にあたらしくあります。
この問題が露呈したのはつい最近、 日本がモデルとしたドイツに於いて[※6] でした。 高い価格設定は常に魑魅魍魎を招く危険を孕みます。 此処に於いても投機の対象となり消費者負担となって跳ね返る結果を招いたのです。
買取価格と期間は確実に見直しが必要です。 それは単に消費者負担を減らすのみならず、 事業者としても長期的には健全経営に向けての試金石となる筈です。 遅かれ早かれこの買取価格は自由化されるべき対象であるからです。
こうした待ち構える問題は それでも鋭意努力、解決されつつ適切な方向にエネルギー問題は進むべきで、 決して一部の既得権に従うものであってはならないと考えます。
追記(2014年11月2日)
頃日、此の問題が取り上げられる機会が増えて来ました。 ことの発端は国内電力会社が今年2014年8月から9月に掛けて 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(Feed-in Tariff:FIT)に基づいた 太陽光発電などの送電線への接続の新規受け付けを事実上一旦停止する姿勢を見せたから[※7] でした。 各社に挙げられるインフラ不整備が主な理由にせよ、高値に設定された買取価格が重く圧し掛かりインフラの対応を遅らせるのも確かです。 電力各社がインフラを建前に高値設定価格の買取義務付けに抵抗を示したとも取れるでしょうが、 東北大震災以降悪役の電力会社にしろ其の主張は謂れのないものになく汲み取るべき処があるのは事実、 加えてFITを悪用する電力供給業者も出回って来たのを上手く利用して 経済産業省は一旦決定した買取価格を引き下げられるよう制度変更に着手[※8] しました。 奇しくも本記事での指摘が実現した格好です。 電力供給業者も唯に儲け主義に走らずエネルギー供給事業のなんたるかを鑑み国勢を鑑みた上で姿勢を決して欲しいものです。
追記(2018年10月5日)
朝日新聞の2018年10月4日の記事 太陽光買い取り見直し検討 未稼働は認定取り消しや減額 及び一箇月にも満たない内の列島を跨ぐ大規模停電の発生を受け、 本ブログ2013年1月23日の記事 日経の予想が外れ太陽光発電の再生可能エネルギーの固定価格買取制度の買取価格引き下げへ に追記しました。
追記(2019年7月25日)
2019年6月12日に大手メディア、地方メディアから挙って 「経産省太陽光買い取り終了検討」なる旨の報道がなされましたが、今日現在当局から正式な当該告知はありません。 但し買い取り終了を待つ迄もなく今年は 2019年問題 に当たれば、実質的に買い取り事業者となる既存電力会社の 卒FIT 買い取り単価が出揃いましたので、 一覧表を作成し、本ブログの2013年1月13日の記事 太陽光発電再生可能エネルギーの固定価格買取制度の買取価格引き下げ に追記しました。
使用写真- Solar panels, Putney School( photo credit: Putneypics via Flickr cc)
- 経済的優位性を失いつつある原子力発電と代替エネルギーの育成(2012年7月31日)
- 原発是非の鍵を握るLNG(液化天然ガス)利用の日本に於ける動向(2012年7月19日)
- 再生可能エネルギーの固定価格買取制度の開始と太陽光発電を取り巻く思惑(2012年6月26日)
- 市場原理と環境保護という二つの力が、米国を脱原発へと向かわせている(Life is beautiful:2012年8月9日)
- 推進力を失った原子力発電GEのトップが認めた高コスト、未来はガスと自然エネルギー?(JB Press:2012年8月6日:2019年9月8日現在記事削除確認)
- 専門家の目は節穴? 驚異的な勢いで普及する再生可能エネルギー(Wired:2012年8月13日)
- 風力タービン、大型化は予想以上の効果(ナショナルジオグラフィック公式日本語サイト:2012年7月23日)
- 日本で始まった電力自由化の議論タブーを破り、独占市場に終止符を打てるか(JB Press:2012年8月6日:2019年9月8日現在記事削除確認)
- ドイツの電力事情=理想像か虚像か3-再生可能エネルギー法の見直し(アゴラ:2012年8月10日)
- 太陽光発電の何が問題なのか 電力5社が接続申し込みを「保留」(J-CASTニュース:2014年10月3日)
- 再生可能エネルギー 悪質なら価格引き下げも(NHKニュース:2014年11月2日:2019年9月8日現在記事削除確認)