1980年代から飛ぶ鳥を落とす勢いで伸び続けた家電量販店が今踊り場に立ち 今後の方針を模索するのはインターネットに顧客を奪われる ショールーミング なる現象[K1] に悩まされているからでした。 斯くもネットは実世界、実店舗に影響を及ぼしている訳で、 ネット上には仮想空間と揶揄されながらも最早巨大な市場が形成されているとして差し支えありません。 従ってあらゆる業界がネットには食指を動かされざるを得ないのでしたが、 携帯キャリアとなれば元々がネットの一翼を担うだけに対応は必須となるのでした。
業界トップのNTTドコモが目を付けたのがネットショップ[K2] でした。 らでぃっしゅぼーや や タワーレコード など次々買収、 オムロンヘルスケア と提携するなど漸次その準備を進め、同社代表自ら堂々と世界に冠たるネットショップの雄 アマゾン 社を目指すと怪気炎を上げたのです。
対する契約者数に追い上げも激しく、
今や業界2位の座をauと競り合うソフトバンク社が
インターネット対応に世間に大きな話題を提供したのは
ネット決済に於いてです。
今年2012年5月9日付けのプレスリリース[※1]
に於いて米eBay社の子会社で手軽な決済手段の提供で世界中に支持を得る
この新方式の決済手段こそソフトバンクがNTTドコモを追い詰める強力な武器となった
iPhone
を用いた
これが如何に従来の慣習を破るものであるかはカード業界の反応を見れば明らか[※2] です。 国内カード業界は挙って危機感を募らせペイパルヒアの批判の声を上げています。 手軽さゆえの危うさが有るのは批判の通りですが、 導入業者の要望の声が此処に有ったのも確かです。 ソフトバンクとペイパルは正しく其の声をこそ捉えたサービスを放ったのでした。 このサービスを実際に利用した旨、記す記事[※3] もありサービスの効果的な面が目立つ内容となっています。 問題も孰れ発生するかも知れませんから動静は注意して見守る必要がありますが、 一定の支持を得て行くのは間違いのないものでしょう。
対してNTTドコモの経営に暗雲が漂うのは MNP制度を利用したユーザーの転出が停まらず遂には転入を超過し 契約者数が此処数ヶ月純減している報道が多く齎された処にも明らかで、 スマートフォンの代表たるiPhoneを手駒として有しないためと分析されるに対し、 かたむき通信にはドコモ決算の際にそうとは限らないと言及した処[K3] です。 800億円と言う巨額の下方修正に於いては キャッシュを燃やしているが如き経営 と投資家から揶揄されたのが正鵠を得ているようにも伝えました。 iPhoneさえ有れば此れが直ぐ様挽回出来るとは考え難いものでしょう。 勿論決済事業は携帯キャリアに必須のものとしてドコモの成長ステージ事業に上げられこそしますが、 契約者数が減少する中に決済事業の成長は難しいのは無論です。 更にはこの決済事業に於いてソフトバンクがiPhoneに加えて強力な ペイパルヒアを投入して来ているの状況では困難さは増し、 畢竟背けた視線をネットショップに注がざるを得ないのでしょう。
而してドコモのネットショップ事業に対する渇仰は高まるばかりで、 アマゾンに対抗すると言うよりはどうにも羨望の眼差しを注いでいるようにしか見えないのは そうした内情を伺わせるものでもあります。 然るにそのネットショップ事業がどう運ぶかに懸念を持たれるのが ドコモの長い間に醸成された企業体質[K4] でした。 インターネットに出自を持ち純粋にネットショップを中核事業として発展して来たアマゾンと 元々国営事業に出自を持ち官僚体制を或る程度内包せざるを得ないドコモでは トップの有り様を始め何から何迄対極的とも言える様相を呈しています。 一見事業ドメインが類似するかに見えるのは恐らく錯覚で 通信インフラとネットとは言え小売業ではその距離は余りにも遠いと言えるものです。
ネット上に形成された巨大市場に於けるこの ネット決済事業擁するソフトバンク対ネットショップを掲げるドコモの対戦は 前者は例に依ってすったもんだは有るでしょうが有る程度の成果を上げ、 後者は特にアマゾンなどとの摩擦も無い侭静かに沈静化して行く様に かたむき通信的には考えますが、さて如何なる展開を示すでしょうか。
追記1(2018年2月2日)
先月末2018年1月30日に2017年度第3四半期の決算説明会を催したNTTドコモ社に於いては、 増収減益ながらもまずまず堅調な業績結果[※4]であったようです。 処で5年余り前に配信した本記事冒頭に記した アマゾンを目指す とやらの怪気炎は何処へやら、 スマートライフ事業 内にネットショップはコマース事業として十把一絡げに寂しい限りの扱いです。 其れも其の筈、此の度本記事に買収を紹介した らでぃっしゅぼーや は オイシックスドット大地株式会社 に売却されたのでした。 其の売値は10億円[※5]、 オイシックスドット大地が実施する第三者割当増資に於いて3%相当の6億3千万円の出資を引き受ける[※6] と言うおまけ付きです。 ドコモ買収時の資料[※7] を見れば当時、2011年2月期のらでぃっしゅぼーやの営業利益は2億6千百万円、純利益は8千2百万円、 今売却時直近の2017年2月期の営業利益は1千5百万円、9百万円、となっていますから どうやらドコモ傘下に於いてはらでぃっしゅぼーやの成長は全く見られなかったばかりか些か企業価値は低下していると捉えても良さそうです。 斯くも企業価値が毀損されれば本記事配信時のドコモのらでぃっしゅぼーや買収額は69億円であったものが[※8]、 今回の売却額を差し引いて単純計算で59億円ものキャッシュはまたも景気良く燃やされた勘定となるのでした。
追記2(2019年7月23日)
ソフトバンク社の
対して追記1に記した様にネットショップに見切りを付けた感のあるドコモは、 本来トップキャリアとしてネット決済に於いても有利な立場にある筈でした。 キャッシュレス決済に於いて、背後に実質的な金額の遣り取りは、クレジットカードと紐付けたり、プリペイド方式を用いたりするのですが、 電話料金支払いを其れに流用すべく長い運用の歴史を持っていたからです。 処が本記事配信時点ではスマホ事業に於いて遅れを取っていたのは間違いなく、其れはスマホの代表機種たる iPhoneを取り扱えるようになったのが翌2013年9月20日から、と言う状況を鑑みても明らかです。 斯くしてドコモも状況が整い、 dポイント と iDカード を統合して dカード を用意[※11] して、キャッシュレス決済にも漸く対応したのでしたが、熱気を帯びる競合各社に比して些か温度の低い様にも感じられ、 出遅れた感のあるキャッシュレス決済市場に今後どのように巻き返しを図り、 果たして競合と同じ土俵に上れたと言い得る状況が出来するのかが興味深くあります。
使用写真- Purse with Money( photo credit: 401(K) 2012 via Flickr cc)
- ショールーミング現象は嘗て小規模家電小売店を駆逐した家電量販店の基本施策の安売り手法の新形態(2012年11月20日)
- NTTドコモがタワーレコードを子会社化しEコマース事業進出を目論む(2012年6月11日)
- ドコモ800億円の下方修正はiPhone5の所為にあらず(2012年10月27日)
- NTTドコモが通販事業本格進出で目指すアマゾンコムとの企業体質の比較(2012年7月13日)
- ソフトバンクとペイパルが合弁会社を設立~グローバルモバイル決済ソリューション「PayPal Here」を発表中小規模事業者における、クレジットカードやデビットカード、PayPalによる決済を実現~(ソフトバンク株式会社:2012年5月9日)
- ソフトバンクのスマホ決済に カード業界からは犯罪誘発の声(ダイヤモンド・オンライン:2012年12月21日)
- PayPal Here ペイパルヒアの使い方としてメリットデメリットを考えてみた(株式会社ヒューゴ社長中田大輔のブログ)
- 純増は伸び悩むもドコモ光が好調 楽天の新規参入には「ノーコメント」 ドコモ決算会見(ITmedia Mobile:2018年1月30日)
- らでぃっしゅぼーや株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ (オイシックスドット大地株式会社:2018年1月30日)
- ドコモ、らでいっしゅぼーやをオイシックスに売却(ITmedia ビジネスオンライン:2018年1月30日)
- ドコモ、らでぃっしゅぼーや買収 成長へ異業種連携(日本経済新聞:2012年1月30日)
- 報道発表資料 : らでぃっしゅぼーや株式会社の株式公開買付けを実施(NTTドコモ:2012年1月30日)
- モバイル決済大手のPayPal Here(ペイパルヒア)がサービス終了!ICカード決済への対応見送りにより、今後のサービス提供を断念。(クレジットカードの読みもの:2016年2月2日)
- 政府のポイント還元事業、その「意外な狙い」 (東洋経済オンライン:2019年3月18日)
- NTTドコモのdポイントとdカード(Acenumber Technical Issues:2018年5月9日)