近大マグロを堪能出来る養殖魚専門店~サントリーGr.と和歌山県と共同で来春オープン予定

近畿大学の 水産研究所 の試みがとても印象的で記事をかたむき通信にも起こし[K1] 、同大が 大学は美味しいフェア などと銘打ち研究成果の養殖魚を一般にも限定的に提供するイベントなども紹介しましたが、 今回同大の配信したプレスリリース[※1] に依れば、一般に恒常的にこれを提供する店舗を サントリーグループ及び和歌山県との共同でオープンする旨、配信されました。

近大では別名ホンマグロとも呼ばれる最高級のクロマグロの養殖に2002年世界で初めて成功し、 翌年、大学発ベンチャーの 株式会社アーマリン近大 も起こし、近大水産研究所の手掛けた養殖魚を広く消費者に届けるべく務めて来ました。 今回の試みはこれを一歩前進させるものです。 新規店舗の特徴は何と言っても 養殖魚の専門料理店 であることです。

葛西臨海水族園のマグロ photo credit by sunatomohisa
葛西臨海水族園のマグロ photo credit by sunatomohisa

通常飲食店に於いては天然を売りにするのは誰しもがその効果を疑い得ない手法で 天然と付くだけで有り難がる向きも多いことから詐欺紛いの商売も多発するのは 吾人にも耳にする機会の少なくない処です。 天然とあれば値段も弾むのは致し方なしと大方が心得ているからでもあります。

同時に養殖魚は不当に貶められているのかも知れません。 養殖について耳にすると言えば、 危険、危ない、恐ろしい、となにやら脅迫めいた文言ばかり並ぶばかりで 如何せん養殖には分の悪い状況ですが、 養殖側の言い分も拾ってみれば現在ではそうとばかりも言えないようです。

例えば養殖カンパチを主業務とする丸栄水産の説明[※2] が参考になるでしょう。 養殖魚と言えば 薬の多用 が連想されてしまう状況を憂え、実際にはどのような状況にあるのかを、 自らの業務をも鑑みて説明しています。 そして味についての言及もあります。 これをQ&Аとして用意するのは恐らくは消費者の心配も 危険性と味、の2点に有るのを肌身に感じてのことでしょう。

危険性と味についてはまた参考になりもし、 面白くも思えるページがマイクロソフト社の運営するMSN相談箱[※3] にも寄せられています。 確かに養殖と言うのは語弊があるでしょうが 牛肉は天然と言うか、野生ではなく殆どが畜産に依りますし 松阪牛などは大変な高値で取引されて味も極上とされています。 危険性などは微塵も取り沙汰されません。 養殖と飼育、肥育、と言う語彙の差も何某か影響が有るのかも知れずとも思わされます。 他にも山菜やブランドについて、興味深い考察がそれぞれの回答になされており、 侮れないQ&Аの一スレッドとなっています。

丸栄水産のページにもある如く日本の漁業生産量は右肩下がりの状況です。 国際情勢を考えてもこれ以上漁獲高を増やすのは難しいでしょう。 しかし海洋国家日本に取っての海産物はその食文化からも欠かすことは出来ません。 この矛盾を解消すべく水産資源の確保に加えて安定的供給を得たいと思えば 養殖に目を向けざるを得ません。 然るに近大の研究も有るのでした。 そして消費者の側も養殖を忌避するばかりでなく、 市場及び供給者を育てていかなければいけない状況であると考えざるを得ません。

養殖魚も適切に扱いさえすれば安全性は恐らくは天然もの以上と成り得るのでしょう。 今回出店の新店舗はカウンターにタブレット型情報端末機備え、 近畿大学および水産研究所の紹介に併せて 養殖魚のトレーサビリティの情報提供を実施するのは如何にも研究機関の配慮に思えます。 安全性に於いてトレーサビリティは欠かせない手法ともなっているのは論を俟ちません。 ブランド牛肉や産直の野菜ともども口に運ぶ海産物の生産者が分かる時代がやって来たのです。 消費者に安心が齎される仕組みとなるのは間違いないでしょう。

ニホンウナギ が絶滅危惧種に数えられる可能性の高まった[K2] のを、また ワラスボ なる海洋生物が絶滅危惧Ⅱ類に既に数えられている[K2] のをかたむき通信にも伝えました。 前者には土用の丑の日と言う日本の食文化に、 後者には地域の特産として受け継がれてきたその地方の独特の食文化に 危機が齎されるかも知れない状況は枚挙に暇がありません。 この状況を受けて近大の試みは有意義なものであるとされて然るべきと考えます。

どうやら養殖魚についての実態も変わりつつあり それは養殖研究の最先端を行く近畿大学の尽力もあってのことでしょうし、 これからも同大が養殖魚業界を牽引して行くものでしょう、 そんな機関の運営する飲食店とあれば信頼にたるのは確かでしょうが、 その代わり想定客単価は4~5千円と少々値も張りはするようです。

追記(2012年12月17日)

クロマグロの漁獲枠が拡大される様相を呈したのを受け クロマグロ漁業に光明~近大マグロも一助か を配信しました。

追記(2013年9月9日)

アーマリン近大直営のレストラン 近大卒の魚と紀州の恵み~近畿大学水産研究所 の開店と其の繁盛を受け レストラン近畿大学水産研究所の大人気に不足する近大マグロと安定供給への課題 を配信しました。

使用写真
  1. 葛西臨海水族園のマグロ( photo credit: sunatomohisa via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 完全養殖クロマグロのブランド近大マグロをがっちりマンデーで紹介(2012年7月15日)
  2. 絶滅危惧種とは~食文化と種の保存(2012年9月13日)
  3. ワラスボ~美味しいエイリアン(2012年9月11日)
参考URL(※)
  1. 近畿大学が養殖魚の専門料理店をオープン 「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」 ナレッジキャピタルにて、サントリーグループ、和歌山県と連携(近畿大学:2012年12月3日:2019年8月16日現在同大では2016年以前のプレスリリースは削除されています。)
  2. 養殖、ここだけの話(丸栄水産:2019年8月16日現在記事削除確認)
  3. 牛肉は養殖が1級品なのに養殖魚はなぜおいしくないのですか(質問・相談ならMSN相談箱:2006年9月5日:2019年8月16日現在MSN相談箱はサービスを停止しています。)
スポンサー
スポンサー

この記事をシェアする