大手レコード小売イギリスHMVを襲った時代の波

音楽業界が今尚巨万の富を産むビジネスであるのは確かですが、 20世紀後半、第2次世界大戦以降の世界程の次元にないのは 今や既に音楽の世紀は過ぎている[K1] からでもあります。 西洋クラシック音楽にブルーノートが与えられ ロックンロールの一大潮流が齎され世界を変革したように 孰れまた何某かの媒介が与えられる迄は 前世紀の余波に音楽業界の浮沈は委ねられています。

日本では音楽を産み出す主体にはない付随ビジネスとしてのレコード業界などが 姑息な手法を用いて著作権を盾に既得権益を固守しようと 体制側と結びつく[K2] など前世紀には有り得ない事態も出来したのは固よりレコード業界が ビジネスとして以外には音楽に興味を持たず、 それは販売音源の品質にも如実に顕れている[K3] のでした。 これなど必死に時代の流れに抗うアナクロな業界の在り方を示しています。

Where I mostly shop for my entertainment needs

携帯キャリアとして情報化社会の最先端を行く筈のNTTドコモに於いても 類似した逆行性が見て取れるのが本業の縮退を補完するために新規事業に選んだネットショップであり、 一見時代に棹指すかにも見えるこの動きはしかしそのためと謳うタワーレコードの買収[K4] に露見します。 従ってこそ株主からは 現在の経営はキャッシュを燃やしているだけ と厳しい批判も投げ掛けられもしているのでした。

タワーレコードとしても買収を許したのは業績の縮退があったからで 若者文化流行発信基地の役割も余所に奪われつつあるものです。 このタワーレコードと嘗てその役目を二分してレコード小売業界に気を吐いたのが HMV でした。 この英国本国のHMVが資金繰りに行き詰まり経営破綻したとの報が 幾つかのメディアから齎されたのが昨日2013年1月15日のことです。

HMVは日本法人 HMVジャパン を1990年に設立、此の年に開店した HMV渋谷 こそHMVジャパンの旗艦店として、また渋谷系ジャンルなる若者文化の発信源として機能し、 流行に敏感な者の集う聖地の如き様相を呈し、 それは1998年、渋谷センター街へ移転してからも継続されたのですが、 世紀の変じて徐々にその勢いは失われ、 遂には2010年には閉店、直後には他の店舗等と共にHMVの経営権は コンビニエンスストア大手のローソンの下に移りました。 この体制は現在も同様で従って英国との資本関係は直接的にはないものとされます。

A blast from the past!

HMVは His Master's Voice の略でありこの 彼の主人の声 なる彼は ニッパーNipper) と言う名の犬を指すとなれば、音楽ファンや家電マニアならずともご存知でしょう、 日本ビクター のトレードマークの蓄音機に耳を傾ける犬のことで、 蓄音機からは物故した懐かしい主人の声が流れてくるのでした。

このニッパーと蓄音機は元は歴とした絵画作品でありそのタイトルこそが His Master's Voice だったのです。 これを買い取って自社の商標として1900年に登録したのが米国の ベルリーナ・グラモフォンBerliner Gramophone) 社[※1] でした。 同社は英国 グラモフォン 社(現EMI)の米国に於ける製造販売企業であり ビクタートーキングマシンVictor Talking Machine Company) の母胎でもあって此れが日本ビクターや米国RCAへと繋がっています。

そしてグラモフォン社の小売部門のブランドとして創設されたのが HMV であり、このブランド名として His Master's Voice の略が使われて今に至っているのでした。 風景画家のフォックス・テリア系の愛犬は紆余曲折あって トレードマークとして世界中を駆け巡ったこのエピソードはなかなかに趣の感じられるものです。

こうして時代をニッパーを通して概観してみれば 成る程HMV社が如何にしてレコード産業に従事したかが判然しますが 今回残念ながら倒産の憂き目を見ることとなりました。 矢張り業態の変革が必要だったのかも知れません。 資本関係の無くなったHMVジャパンは今では屋号も 株式会社ローソンHMVエンタテイメント と変じ2011年3月の時点で既にネット販売が全社売上高の約半分を占める主収益となって[※2] いました。

自力再建こそ断念されたものの今後も引き続き営業は継続され 其の上で引受手を求めているとのことですので業態の変革は必須とはなりますが いつか変容した企業として復活のあるかも知れず、 其の際には相変わらず蓄音機の懐かしきご主人の声に耳を傾けるニッパーの姿を見たいものです。

追記(2015年4月14日)

本記事に2010年の閉店を知らせたHMVジャパンの旗艦店 HMV渋谷 の復活の決定が様々紹介されオンラインメディアからも記事が配信[※3・4] されています。 経営権を有するローソン傘下の 株式会社ローソンHMVエンタテイメント の発表[※5] にて今秋渋谷に業態転換するショッピング施設 渋谷modiモディ の5階から7階を占め HMV & BOOKS TOKYO なる名称にて開店するとのことです。 唯流石にレコード小売専業の業態でないのは無理からぬ処にて 書籍に音楽ソフト、映像ソフト、グッズに始まる独自商品など多様なエンターテインメント品揃えと共に カフェやイベントスペースも併設されるものとされています。 公式サイト HMV&BOOKS TOKYO 書籍と音楽を融合させた都内最大級の複合店舗 (2019年2月6日現在 HMV・HMV&BOOKS・HMV record shop へのリダイレクト確認) も用意されていますが未だ Coming Soon… と有るのみで資本関係のないローソン参加の侭であればニッパー君については残念ながら其の姿は見えません。

追記(2019年2月6日)

2015年4月14日の追記に記した HMV&BOOKS TOKYO 書籍と音楽を融合させた都内最大級の複合店舗 のリンクは現在 HMV・HMV&BOOKS・HMV record shopHMV&BOOKS SHIBUYA 店舗イベント カテゴリーの1頁にリダイレクトされる状況で専用ドメインからは一歩後退の感が伺えます。

さて、共同通信社が昨日2019年2月5日に配信したニュース記事[※6] では経営破綻後、決して順風満帆と言えない状況にあった英国HMV社が、 再び事実上の経営破綻に陥ってCD、DVD販売事業及び資産を売却した旨、伝えます。 ソースは管財人の国際会計事務所KPMGが明らかにした処で、 買収するのはカナダの サンライズ・レコーズ の関連企業であるそうです。 本記事にある通り既に日本のHMVは企業体ではなくローソン傘下の一ブランドとなっており、 英国HMVと資本関係はありませんから影響もないものと思われますが、 矢張り気になるのはニッパー君です。 ニッパー君は彼自身が希少なブランド価値を有しますから、国籍がカナダに移っても、 耳を蓄音機に傾けるお馴染みの姿を見せてくれるものとは思います。

使用写真
  1. Where I mostly shop for my entertainment needs( photo credit: Gene Hunt via Flickr cc
  2. A blast from the past!( photo credit: foxypar4 via Flickr cc
  3. Downtown Edmonton( photo credit: JasonParis via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 音楽の世紀は既に終わっている(2012年7月30日)
  2. 第180回国会にてDVDリッピング違法化及び違法ダウンロード刑罰化を含む著作権法改正可決10月1日より施行(2012年6月21日)
  3. CCCD(レーベルゲートCD)を以て音楽業界が音楽に対して如何に非道を為したか(2012年6月20日)
  4. NTTドコモがタワーレコードを子会社化しEコマース事業進出を目論む(2012年6月11日)
  5. ドコモ800億円の下方修正はiPhone5の所為にあらず(2012年10月27日)
Downtown Edmonton 参考URL(※)
  1. ニッパー (犬) - Wikipedia(Wikipedia)
  2. 音楽配信で店販苦戦、生き残りでEC強化へ(月刊ネット販売:2011年3月25日)
  3. HMV、渋谷に5年ぶり復活!イベントスペース併設の550坪旗艦店(音楽ナタリー:2015年4月14日)
  4. HMV、今秋渋谷に旗艦店オープンへ--5年ぶりに復活(CNET Japan:2015年4月14日)
  5. 書籍と音楽を融合させたHMV最大のエンタテイメント複合店舗HMV&BOOKS TOKYO今秋 渋谷にオープン(株式会社ローソンHMVエンタテイメント:ニュースリリース:2015年4月14日)
  6. HMV、カナダ企業が買収 昨年末に事実上の経営破綻(共同通信:2019年2月5日)
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