ソーセージを咥えたままで高級腕時計の商談が出来るかと1991年、
バーゼルフェアから独立して立ち上げた宝飾腕時計ビジネスショーである、と実しやかに囁かれるのが
S.I.H.H.
(Salon International Haute Horlogerie:国際高級時計サロン)
通称
ジュネーヴサロン
です。
今年2013年はバーゼルワールドは4月25日から5月2日に掛けて開催された[K1]
のに対し、第23回目となるジュネーヴサロンは1月21日から25日迄ジュネーブ郊外で開催されました。
参加したのは孰れ劣らぬ綺羅星の如きリシュモングループを中心とした16ブランドと
S.I.H.H.公式サイトの
BRANDS
ページ(2019年9月18日現在ページ削除確認)に見え又其の様子は
本年は
独立独歩
を旨とするが如く各ブランドの個性が際立つ中にも、固より其のコンセプトを
時計のF1
とし2001年にスイスはジュラ地方に創業し強烈な個性で近年急速に頭角を現した
Ref. | モデル名 | アンバサダー | 予価 |
---|---|---|---|
RM 58-01 | トゥールビヨン ワールドタイマー ジャン・トッド Tourbillon World Timer JEAN TODT | ジャン・トッド (FIA会長) | 57,750,000円 |
RM 036 | トゥールビヨン G-センサー ジャン・トッド Tourbillon G-Sensor JEAN TODT | ↑ | 47,250,000円 |
RM 27-01 | トゥールビヨン ラファエル・ナダル Tourbillon RAFAEL NADAL | ラファエル・ナダル (プロテニス選手) | 69,300,000円 |
RM 59-01 | トゥールビヨン ヨハン・ブレイク Tourbillon YOHAN BLAKE | ヨハン・ブレイク (短距離走者) | 53,865,000円 |
RM 030 | オートマティック デクラッチャブルローター ジャパン・リミテッド Automatic Decluchable Rotor Japan Limited | 日本市場 限定モデル | 12,075,000円 |
RM 11-01 | フライバック・クロノグラフ ロベルト・マンチーニ Flyback Chronograph ROBERTO MANCINI | ロベルト・マンチーニ (サッカー監督) | 12,180,000円 |
RM56-01 | トゥールビヨン サファイヤクリスタル Tourbillon Sapphire Crystal | - | 164,850,000円 |
※ 上表はスワイプで左右にスクロールして閲覧可能です。
其の価格は紛うことなき超高級腕時計、多くに複雑機構の代名詞たる
トゥールビヨン
が冠されているのも其の証しでしょう。
そしてもう一つ特徴的なのが7機種中、
RM036、RM27-01、RM59-01、RM030(表中Ref.太字)
の4機種と半数以上のケースに採用される素材が
カーボンナノチューブ
であるのでした。
取り扱う際には其の半導体素材としての特性や、 其の端が閉じればフラーレンとなる構造に注目しましたが同時に 炭素同素体 に共通する特性として硬く、軽い、と言う性質を保有すれば、 此れを腕時計の超軽量ケースとしてリシャール・ミルは結実しているのでした。
此の軽量ケースが如何なる効果を齎すかと言えば 其れはアンバサダー、ラファエル・ナダル氏とヨハン・ブレイク氏、2人の存在が示しています。 極々1級のアスリートの腕に嵌められてこそ其の価値を発揮するのは 軽量故にパフォーマンスの邪魔にならないからでした。 実際、両氏は腕に専用モデルを巻いてプレイもするのです。
ラファエル・ナダル氏はテニスのトッププレイヤーとして活躍、
特に得意とするコートサーフェスの全仏オープンでは2005年から8年の
男子シングルスを連覇するなど無類の強さを発揮します。
其の彼が2010年に実際腕に巻いて大会を戦ったのがリシャール・ミルが彼の為に専用に開発したモデル
RM027[※3]
でした。
前年2009年には5連覇を逃すも氏は見事此の年RM027を左手に5勝目を勝ち得ると再び連覇を続け、
遂には2012年、
そんなラファエル・ナダル氏の2回目の4連覇では常に彼の利き腕には リシャール・ミルの超軽量モデルRM027が纏われていたのでした。 驚きとは言え当然のことながら激しいプレイの後も トゥールビヨンと言う複雑機構は何事もなかったかのように動き続けました。 其のRM027の系譜を次いで2011年には RM035 が[※5] そして今年 RM27-01 が発表されたのです。
ヨハン・ブレーク氏はジャマイカの陸上競技選手であり、
世界のトップ・スプリンターとして活躍、
2011年の世界陸上では男子100mのゴールドメダリストであり、2012年ロンドンオリンピックでは
其の氏の為にリシャール・ミルが特別に誂えたモデルが緑も鮮やかなジャマイカンカラーを纏った RM59-01 でした。 歪みを加え、左右で厚みも異なる変形トノー型のフォルムは空気抵抗を考慮したのでしょうか、 又、アンチコロダルPb109合金製の4本のブリッジは氏のポージングのイメージされる意匠で ムーブメントの円滑な動きとショック体制に寄与するのだと言います。 そして何よりカーボンナノチューブ素材のケースは驚くべき軽さを実現しているのは間違いありません。 残念ながら其の明確な数値は判明しませんがRM59-01の重量は58gとも言われています。 ナダル氏のモデルRM27-01のケース重量は約19gと伝えられますから 無理の無い自然な数値と捉えて良いものと思われます。 其の超軽量ケースに於ける組成は件のカーボンナノチューブを ポリマーで満たした型に射出して成型され、強度は鉄の200倍を誇るのです。
上の両アンバサダーのモデルを見れば、 機械的な複雑さを示すトゥールビヨンが一流のアスリートが装着し運動する衝撃に耐え、 尚且つパフォーマンスに影響しない超軽量であるのに、 正しくコンセプトの腕時計のF1足る所以が知れるのです。
此のリシャール・ミルを率いるのは自らの名を其の儘ブランド名に冠した
一般には杳として知れないリシャール・ミル氏の素性ですが、
此処でまたGressiveが配信する
またセレブ向けに冒険と挑戦と貢献を基本理念として人物記事を配信する ファウスト にはインタビュー記事[※9] が配信されており、所有車がポルシェ917、910、ローラT70、マクラーレンF1、フォードGT40 と紹介され、F1マシンのフェラーリ312Tは現在の自車を全て売り払っても手に入れたいと披瀝、 なかなかのカーマニア振りが披露されています。 ブランド価値向上の手法を問われれば 明確効果的な戦略の立案と大量生産の否定が旨とされます。 其の上でターゲットを文化の理解者、即ち本物を知る人とし、 例として自らの友人達を上げるのには皆其の保有するフェラーリは12気筒モデルと明言するのは 些かスモールフェラーリのオーナーの歯噛みしスモールを冠されるカテゴライズを 拒否する志向の所以足る処でしょう、 此の発言にもリシャール・ミル氏の歯に衣着せぬ気質が窺い知れます。
此処迄来れば既に不思議ではありません、 其のインタビューが用意されるのは車雑誌 スクーデリア に於いてでした。 川端由美 氏をインタビュアーとする其れは2009年10月[※10] に実施されたようで、リシャール・ミル氏の更に詳細を穿とうとすれば 当該号を手に入れるのが好適であるでしょう。 計時を以てする腕時計と自動車レースの深い関係と其の発展の証左とも言えるのかも知れません。
以上を見れば時計師にもデザイナーにもあらぬコンセプターとしての在り方は
最後に今回に限らず惜しむらくは素材に先進的な取り組みを見せる リシャール・ミルに於いてカーボンナノチューブへの言及が些か蔑ろ、疎かに感じられる点です。 かたむき通信に扱ったように半導体や極小ベアリングに活かされるカーボンナノチューブの特性が 如何にして腕時計の素材として活かされているのかが、詳しく語られていない面が残念に思われるのです。 カーボンナノチューブ配合のカーボンコンポジットとは如何なる組成なのか、 企業秘密として軽々に情報公開はならないかも知れませんが、 出来うる処迄、其の秘密を、 縦令伝説的装飾を施されても構わぬでしょう、開示されて欲しくもあります。
使用写真- entrée créative, horloger Richard Mille (FR75,PARIS)( photo credit: jean-louis Zimmermann via Flickr cc)
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