マッターホルン~イモトアヤコさんの登頂プロジェクト第4の山

日本テレビ史上未だ嘗て無い お笑いドキュメンタリー番組 を確固たるものとすれば優秀なテレビ番組として第49回 ギャラクシー賞 のテレビ部門優秀賞に選出されて イモトアヤコ さん率いる イッテQ!登山部登頂プロジェクト は益々波に乗り、 遂には1年に1度の登山では足らじとクリスマス、お正月に掛けた Acon Caguaアコンカグア 登山から半年余りの2012年8月1日に伝えられたのが登頂成功率30%、 アルプスの角 とも呼ばれるスイスは標高4,478mの Matterhornマッターホルン 登頂プロジェクトの其の四です。

Matterhorn and Gornergrat photo credit by AlphaTangoBravo / Adam Baker
Matterhorn and Gornergrat photo credit by AlphaTangoBravo / Adam Baker

マッターホルンは19世紀半ばまで難攻不落でアルプス山脈には最後まで登頂を許されなかった 最後の砦とも呼べる山でした。 しかし登山家に魅力的な山故に危険性も顧みない登山者に因る事故が余りにも相次ぎ 山に立ち入る為には然るべき協会が定めた基礎能力を試すテストトライアルに 合格しなければならなくなってしまったほどです。 また今迄イモトさんが挑戦した山とは今回は異なり、 岩登り、クライミングの技術が必要不可欠ともなるのでした。 それも人一人しか通れないルートしか有さず他の登山者の邪魔になってしまうため 単に岩登りが出来るだけでなく 時間当たり標高差300mの岩場を登るスピードが求められもするのでした。

従ってイモトさんは8月5日には富山県入りし、 国立登山研修所 ロッククライミングの実地練習と相成りました。 山業界では50°もの急峻な傾斜を 寝てる と称すのにショックを隠せないイモトさんを尻目にトレーニングは続きます。 高さ17mの人口壁に次いでは立山連峰 剱岳 でより実践的なトレーニングです。 剱岳は標高2,999m、日本の岩山の中でも最難関の岩の殿堂とも呼ばれる山であるにも関わらず トレーニングの場であるのですからマッターホルンの厳しさが窺い知れようと言うものです。 体力とクライミングセンスについては申し分ないイモトさんにも たった一つ高所恐怖症の弱点が発覚するなどしつつ 世間がロンドンオリンピックで盛り上がっている頃の6日間を 只管トレーニングに励み8月9日には最も難しい源次郎尾根ルートで以て登頂に成功 剱岳山頂を見事制覇して見せたのでした。

8月19日にイモトさんはスイス入りします。 Zermattツェルマット と言うマッターホルンの麓に広がる如何にもスイスらしい美しい街です。 マッターホルンの登山許可をかけた検定 マッターホルンテストトライアル はスイスの山で実施されるのでした。 試験官は現地のプロガイドの Michael Lerienミハエル・レルエン さん、実はこの御仁若くイモトさんをうっとりさせるイケメンながらも 普通のクライマーが10時間掛かるヘルンリルートを2時間半で踏破と言う 記録ホルダーを有する天才クライマーでもあり、 そしてこのプロジェクトに於いて重要な役割を演ずる人物でもあるのでした。

Matterhorn    大きな地図で見る

マッターホルンテストトライアルは1次試験は標高2,927mの岩山 Riffelhornリッフェルホルン で最終試験は雪と氷に覆われた標高4,164mの Breithornブライトホルン の2部構成となっています。 このように厳しい検定が設けられたのも全くガイド達を守るためで 以前は年間1,000件以上もの登山事故が発生しており、 マッターホルンではガイドと登山者が命綱を結び合うので 登山者の未熟は熟練のガイドの落命にも繋がり兼ねないからでした。

今回は不思議にもあの頼れる山岳ガイド 角谷道弘 さんの顔が見当たりません。 実は角谷さんはアコンカグアにイモトさんと同行してから2月後の2012年3月に 試験の教官として参加中受験者の滑落に巻き込まれ大怪我をしていたのです。 従ってガイドが登山者に厳しいのも当然なのです、 未熟な登山者が招く危険は自らのみではないのでした。

8月20日テストトライアル1次試験合格の目安は高低差200mを1時間での登攀することです。 ポイントは基本的身体能力とクライミング技術でなんとなれば不測の事故を防ぐ最大の防御が 素早く登り素早く降りるスピードなのでした。 これに見事合格したイモトさんは更にはテストトライアル最終試験にもパスしました。 此方のポイントは高度なクライミング技術に雪や氷への対応力、そして精神的な強さが試されます。 課せられたのは尾根を横断する難関ルートですが 異常に速いペースを4時間、尾根地獄の1kmを見事踏破しブライトホルン山頂に イモトさんはレルエンさんを納得させる技量で以て到着して見せたのです。 そして案の定、石崎ディレクターはこの厳しさでは不合格は如何ともし難く 敢え無く戦力外通告を受けました、と云う訳で今回も(笑) 番組関係者抜きでのアタックのお笑いドキュメンタリーです。

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イモトさん着用と類似のもの思われるpatagonia M's R2 Jkt 25136

そして此の時イモトさんは観光名所ツェルマットで恐ろしい教育をも受けています。 イモトさん達が登頂に利用する予定の ヘルンリルート が緑の光で示される展示も楽しいマッターホルン博物館に 証拠の切れたロープは有りました。 マッターホルンの悲劇 です。 ヘルンリルートは最も有名なマッターホルン登山ルートでもあり、 147年前登山家 Edward Whymperエドワード・ウィンパー(1840~1911) が難攻不落の頂を制した栄光の道でもありました。 当初は難しいと思われ避けられたこのルートを採用するのに5年の歳月を費やしてもいます。 悲劇は登頂を達成した後、訪れました。 ウィンパーは下山時に4人の仲間を亡くし世界中で非難を浴びたのです。 ヨーロッパで1番有名な登山史とされるマッターホルンの悲劇でした。 この経緯に関しては 200 SNOW REPORTS 内に 魔の山:マッターホルン物語 と題され詳細が記されていますので興味の有る向きは参照下さい。 その時に切れたロープの実物が博物館に飾られているのを其の目で直に見た イモトさん、折角上がったテンションも駄々落ちです。 でもウィンパーが著書に残した言葉に いかに勇気や体力があろうと慎重さを欠いては何にもならない。 どうか忘れないで欲しい。 一瞬の不注意が一生の幸福を台無しにしかねないのだから とあるそれだけは心して登頂を目指して欲しいものです。

マッターホルン登頂チャレンジを約束されたイモトさんは 一旦日本に帰国して低酸素室でトレーニングするなどして アタックへ向けた体制を整え、再びスイスへ入国したのは月も変わった9月1日でした。 しかし此処で一番のトラブルが発生しました。 季節はずれの雪がマッターホルンを白々と染め上げたのです。 マッターホルンは見るも黒々としていないと登るのは難しく、 従って決められた登山シーズンは7~9月初旬までの夏の2箇月間のみ、 此処に来ての雪は痛く、時期を延ばせば来年に延引と相成ります。

こう白々としては最早別の山に登るのと同然で、 通常頂上付近だけ使うアイゼンが行程の半分以上で使用する羽目ともなってしまいます。 こうとなっては試験管のレルエンさんはイモトさんに雪山にチャレンジする能力があるか アイゼンをつけてのクライミング追試を実施する他ありません。 9月2日に第1次試験と同じリッフェルホルンで追試を受けたイモトさんの しかしグレードアップ感は比類無く簡単に合格して見せました。 しかし肝心のマッターホルンのコンディションは好転せず 9月3日、4日とじりじりとした日を過ごすのみにて遂に待機期間も5日間となった5日、 厳しくも判断を下さなければならなくなりました。

幸い5日前より見るからに雪は減っています。 そして遂にレルエンさんはGOの判断を下しました。 ガイドも非常なリスクを負うのは前述した通りですが、 イモトさんのスキルを認めた上でその情熱を認め何とかして遣ろうと言う心遣いだったのでした。 しかし矢張り通常より危険なのは勿論であり、アタックに際して唯一の条件が提示されました。 下山にはヘリコプターを使うこと、 と言うのがその条件です。 これに関しては批判も様々有りますが、 全て白日の下に伝えるのはお笑いドキュメンタリーの面目躍如です。 そしてそれは番組的な絵面にも最後に趣を与えることとなったのでした。 とまれ1泊2日の短期決戦が決定し早朝5時にスタートして高低差1,200mの岩登りを敢行、 8時間以内に頂上につけないペース及び状況となれば断念も吝かでないことが確認されました。

イッテQ!的に森三中の樽風呂差し入れなど楽しみ 9月7日は愈々マッターホルン入山、 ロープウェーで標高2,583mにシュヴァルツゼー駅に向かいます。 アタック隊チーム編成では天才クライマー、 ミハエル・レルエンさんに全権を握るガイドを委ねます。 勿論試験不合格の石崎Dは麓の小屋で待機と相成ります(笑)。 午後5時には今日一泊する標高3,260mのヘルンリ小屋に到着、 アタックパーティはこのコンディションで4組と少ないため小屋は空いていますが、 それでもアタック開始は他の隊の邪魔にならないように最後に出ることとされました。 午後7時には夕食を取り就寝となりましたが、 一夜明けたイモトさん、緊張からか全然眠れなかったようで お化粧の取れた顔は急激に老け込んでしまいました(笑)。

CAMELBAK HIGHWIRE25 スカイダイバー×イグレット  1821259
イモトさん使用と類似のもの思われる CAMELBAK HIGHWIRE25 スカイダイバー×イグレット 1821259

9月8日、勝負の日がやって来ました。 気温は零度、天候は快晴の絶好のアタック日和に 午前5時、待ちに待ったマッターホルン登頂チャレンジ開始です。 処がイモトさん、大変です。 ガイドのレルエンさん、後半の予想が付かない雪を考えて、 前半に貯金を築いてしまおうと飛ばしに飛ばすのでした。 けれどイモトさん、ぶ~ぶ~文句を言いながらも確り付いて行けてます。

午前6時52分、 アルプスの栄光 と言われる日の出にマッターホルンの山頂が赤く染まります。 思わずイモトさん、CGかと思ったと漏らす程の美しさですが、 この明るさは同時に恐ろしいほどの高度感を露わにもします。 本当に大変なチャレンジをしているのだと視聴者にも伝わります。

レルエンさんが飛ばすのも尤も、 アタック中途の避難小屋のソルベイ小屋に迄到着するのに 3時間以上掛かれば強制的にチャレンジは終了させられます。 貯金を作る以上に先ずチャレンジ継続の意味でも飛ばす必要があるのでした。 しかしイモト隊は小屋には確り2時間40分で到達出来ました。 其処は標高4,000mの断崖絶壁、 イモトさんが、こんな処に有るんだ、と言う途轍もない位置に小屋は建てられています。 しかし小屋は基本的に休憩場ではありません。 緊急時にのみ使用されるもので此処に休憩は無し、 腰を下ろしてもいけない厳しいチャレンジです。

レルエンさんは此処からが勝負だと言います。 先ずこの後待ち受けるのは難所の一つ マッターホルンの肩 ですがイモト隊は午前8時半に肩の上に到達しました。 しかも此処で始めてアイゼンを着用するそのタイミングは 思ったより遅い状況を許す幸運で天が味方したと言えるでしょう。 此処で初めて、腰を下ろしての休憩が取れました。 けれどアイゼンを装着すればペースは劇的に落ちる予定、 即ち正念場となります。

厳しい登攀路を厳しくも頼もしいガイドに率いられ進む先にはまた難所、 左右が何と4,000mも切れ落ちる ナイフリッジ 、正しくナイフの刃を渡るような恐怖を味わいます。 そして待ち受けるのは最後にして最大の難所 Fixed ropeフィックスロープ と呼ばれる頂上直下の高さ300mもの岸壁です。 何故フィックスロープ、即ち固定されたロープと呼ばれるのかと言えば、 非常に危険な場所で常時ロープが設置されているからなのでした。 最後にして最強、マッターホルンの番人です。

午前9時50分、しかしイモトさんは見事にフィックスロープをクリアして見せました。 あとはもう少し傾斜が僅かに緩くなった雪壁を登れば 山頂まで80mのビクトリーロードを残すのみです。 イモト隊は一歩、また一歩と其処までの苦労を噛み締めながら進むのを 山は一転して穏やかな顔を見せて出迎える様はまるで其処迄の過程を全てを知っているかのようです。 そして遂に遂に午前10時16分、マッターホルン登頂プロジェクトは成功したのでした。 登頂に成功して先ずその喜びを伝えたいイモトさんは角谷さんに電話を入れれば、 やってくれます、お笑いドキュメンタリー、 まさかの角谷さん電話出ずと相成ったのでした。

この登頂チャレンジには条件が付けられていました。 コンディションがかなり悪いため下山についてはヘリコプターを用いると言うものでしたね。 これが山頂まで迎えに来るヘリコプターに楽々乗り込めるかと言えば然にあらず、 アルプスの角と言われる急峻なマッターホルン山頂にヘリコプターが着陸できる余地など有りません。 詰まりそうです、お待ち兼ね、最後にイッテQ!ならではのアクティビティは ヘリコプターに吊り上げられ大声で喚きながら天高く回収されるイモトさんが この上ないものとして番組の掉尾を飾ったのでした。

クルー全員無事ヘリで回収され下山したイモトさんに 此のプロジェクト成功で気を良くしたスタッフから第5の山打診が早速入ります。 それは勿論ヒマラヤ、来年にも8,000m級の山のプロジェクトを実施しようと言うものでした。 ゲップが出るほど登山の苦労を味わい今やっとの思いで下山したばかりのイモトさんは 呆れ顔でこう言い放ったのでした… 今言う?それ?…しばらく山はいいやって思ってる人に!

追記(2019年11月25日)

イモトアヤコさんとイッテQ!番組ディレクターの 石崎史郎いしざきしろう さんとの結婚を受けて2012年10月3日の記事 キリマンジャロ~イモトアヤコさんの登頂プロジェクト第1の山 に追記しました。

使用写真
  1. Matterhorn and Gornergrat( photo credit: AlphaTangoBravo / Adam Baker via Flickr cc
世界の果てまでイッテQ!登頂プロジェクトシリーズ(KQ)
  1. キリマンジャロ(Kilimanjaro)(2012年10月3日)
  2. モンブラン(Mont Blanc)(2012年10月7日)
  3. アコンカグア(Acon Cafua)(2012年10月28日)
  4. マッターホルン(Matterhorn)(2012年11月17日)
  5. 槍穂高縦走(夏山合宿)祝角谷師匠復活(2013年9月29日)
  6. マナスル(Manaslu)(2013年11月13日)
  7. 天国じじい(2014年1月8日)
  8. キナバル(Kinabalu)(2014年3月27日)
  9. マッキンリー(McKinley)デナリ(Denali)(2015年9月4日)
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