時計企画室コスタンテ~腕時計分野のメイカーズの代表的存在

メイカーズ の文脈で頃日ものづくり復権の動きが語られることが多くなっています。 メディアで取り上げられる嚆矢となったのはコンピュータ書籍を主に取り扱う Make: Technology on Your Time 辺りかも知れません。 そして決定版となったのはロングテールやフリーミアムの概念提唱で名を馳せた Chris Andersonクリス・アンダーセン 氏執筆の MAKERS―21世紀の産業革命が始まる でしょう。

今、大手のメーカーが構造的な不況もあり、 またその規模の大きさが災いして方針転換もままならず凋落の憂き目を見ているのを尻目に 個人がものづくりに活躍、脚光を浴びる時代となっています。 それは宛らパナソニックの松下幸之助氏や本田技研の本田宗一郎[K1・2] 氏、ソニーの井深大氏と盛田昭夫氏など綺羅星の如き創業者が登場した当時を髣髴とさせ、 この潮流、ムーブメントをメイカーズと称する処です。

かたむき通信にメイカーズの一つとして取り上げたのは家電のベンチャー企業 Bsize[K3] でした。 神奈川県小田原市に本拠を置く此のメーカーの社員はたった一人、 社長の八木啓太氏のみで氏が設計開発から梱包発送迄全て賄っている一人メーカーでした。 その製品第1号である一本のパイプで構成される電気スタンドは 高額ながら納品に数ヶ月を要する人気商品ともなっているのでした。

そして腕時計の分野でも同じくメイカーズの文脈で語られる企業があります。 代表に 清水新六 氏を擁し長野県諏訪郡に本拠を置く 有限会社コスタンテ がその企業です。

腕時計と一口に言っても値段はピンキリ、 デザインもクラシックなものからポップなもの、女性向けに男性向け、 ムーブメントもクォーツと機械式に大別されども 機械式ムーブメントは種類に依ってはその精度が大きく異なるのは勿論です。 専門家でも此れ等の情報を全て負い掛けるのは難しいでしょう。 なればこそ此れ等を整理、抽出する人物が必要とされ そのコーディネートを請け負うのが清水氏であり、コスタンテ社の中核たる 時計企画室コスタンテ なのでした。 コスタンテは腕時計のコンセプト作りをこそ本分とします。

清水氏はセイコーエプソンの前身 株式会社諏訪精工舎 にキャリアを開始しセイコーのOEM向けの商品企画なども担当していたと言いますから 素地は前職時代から磨かれていたことになります。 2002年コスタンテを設立後は嘗ての同僚と分業体制を布き 設計、デザインや製作などは任せています。

社名としたコスタンテはイタリア語であり英語で言えば constantコンスタント、即ち恒常的、とある通り 自分が納得できるいいものを、じっくり作っていきたいとする氏の方針[※1] を表しています。 長年に渡る人脈形成は広くかたむき通信にも取り上げた ソメスサドル株式会社[K4] の製作する皮バンドを製品にも取り入れているそうですが 騎手からも絶対の信頼を置かれる皮革製品は長く恒常的な運営がなされるべく 社名に相応しいコラボレーションでしょう。

SPQR~Roman drain cover - was the sign of the ancient Romans too photo credit by TheCreativePenn
SPQR~Roman drain cover - was the sign of the ancient Romans too photo credit by TheCreativePenn

最初にコスタンテがメディアなどに取り上げられる処となったのは好評を博した 腕時計やナースウオッチでこれには SPQRスポール と言うブランド名が命名され、それは今でも同社ホームページに 大事そうに掲げられています。 それを見ると superiore Precisione Qualità Riservato の略とされており、矢張りイタリア語で特別な方の為の優れて正確な品質、とでもされるのでしょうか、 SPQRをそのものを見れば羅甸語で Senatus PopulusQue Romanus の略で、元老院及びローマ市民を表す[※2] のだそうで、英語で言う処のLadies and Gentlemenなどのようにも用いられ 古代ローマ共和国の正式名称でもあり、 今でもローマ市役所からのお知らせには S.P.Q.R. と記されるそうですから社名と言い清水氏にはイタリアに特別な思い入れが有りもするようです。

SPQRブランドに興味を持ったのが 東京都初の民間人校長ともなり現在は大阪府の特別顧問を務める 藤原和博 氏で或る時ソメスサドル製の皮バンドの腕時計に惹かれコンタクトを藤原氏から取れば 忽ち清水氏と意気投合、藤原氏プロデュースの腕時計プロジェクト japan が開始されました。 このプロジェクトに東日本大震災を機に製作されたのが SPQR japan311 であり、津波から蘇った奇跡の石 雄勝石 を文字盤にあしらって30本限定で製作されました。 この石は東京駅リニューアル[K5・6] にも使われた石で30万4500円と言う値付けながら直ぐ様完売となりました。 この売上の内、藤原氏へのライセンス料分は雄勝石の加工工場の復活や、 流されてしまった伝統行事 雄勝神楽 の太鼓の復活の為に使われ、その様子はホームページにもカテゴリー 藤原和博プロデュース「japan 311」 として纏められます。 この311はjapanシリーズ第3弾で以下がラインナップされており 孰れも完売なのだそうです。

  1. japan:ゴールド/シルバー
  2. japan2010:ゴールド/シルバー
  3. japan311:雄勝石を文字盤にしたスペシャルバージョン
  4. japan311L:雄勝の帆立と牡蠣から作ったレディース/カジュアル復興時計

これ等、japanシリーズには孰れも日本の職人の技術が結晶されたもので 第5弾にも勿論職人技が活かされる腕時計が揃えられます。 それは磁器でお馴染みの佐賀県の世界に誇る有田焼でした。 年の明けた今年2013年1月8日付けでは プロトタイプの完成した様子が記事[※1] に配信される SPQR arita の有り、文字盤が有田焼で設えられる様子などが知られます。 発売も近いことでしょう。

コスタンテでは オリエント時計株式会社 からムーブメントを調達しており、 また同社と共同でのオリジナルムーブメント開発の計画も有るのだそうで、 腕時計分野のメイカーズ代表としての活躍が期待されます。 そして若し日本に於ける腕時計業界がコスタンテに続くようなメイカーズを輩出し、 スイスのような其々がストーリーを持つブランドが並存すれば、 其の様を思い浮べるだけでも楽しいものです。

使用写真
  1. SPQR~Roman drain cover - was the sign of the ancient Romans too( photo credit: TheCreativePenn via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 破天荒半生記『本田宗一郎スピードに生きる』書評前編(2012年12月1日)
  2. 俺の考え方『本田宗一郎スピードに生きる』書評後編(2012年12月12日)
  3. 家電ベンチャーBsizeの挑戦(2012年10月26日)
  4. 騎手が厚い信頼寄せるソメスサドル~革製品の高品質ブランド(2012年5月4日)
  5. 東京駅丸の内本屋が大正の趣に蘇る~ドーム屋根も駅舎内東京ステーションホテルも復元(2012年6月3日)
  6. 東京駅リニューアルは駅開発復古である(2012年10月5日)
参考URL(※)
  1. 時に魅せられた人々 by Takashi Arisawa 第1回 清水新六(boq.jp)
  2. SPQR - SPQRの概要(Weblio辞書)
  3. 藤原和博プロデュース 新シリーズ 「 S P Q R arita 」 (時計企画室コスタンテ:2013年1月8日)
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