シャープの身売り先にはソフトバンクが好適かも知れない

日本電機メーカーが軒並み苦しい状況下にも一層の悪化に喘いでいるのがシャープです。 かたむき通信には上半期にその株価の低迷から鮮明となった業績悪化[K1] 、その厳しさが予想されるリストラ[K2] 、会計上の分析から見た取るべき方針、施策[K3] など伝えましたが遂には株価の下落から提携先と目された 鴻海ホンハイ・コウカイ精密工業 からも駄目出しがなされ、今以て回復の兆しは見えず、 予定されたリストラの更なる深刻化が懸念される様相を呈しています。

8月末の東洋経済の記事にはその株価は8月中旬38年振りと言う160円台まで落ち、 遂に時価総額は1,900億円を割り込み、 みずほコーポレート銀行 及び 三菱東京UFJ銀行 の短期的支援を仰いだを以てこの2行が同社の命運を握る[※1] としますが、勿論それは金銭的な急場凌ぎに過ぎず根本的な回復策にはなり得ません。 同記事にも言及される如く、所詮行き着く先は良くても iPhoneを擁するアップル社のファーストサプライヤーに過ぎず、 これは同社が嘗て多く利用していた下請けの一つへと業務転換することさえ意味します。

確かにかたむき通信にも 同社の液晶パネルに於ける高い技術力からアップル社への供給に言及しはしました[K4] が、只にシャープ社がアップル社の下請けとしてのみ存在感を示すのは悲しいことであり、 真に望まれるのはiPhone相当すべきヒット商品を同社が生み出すことです。

このシャープの低迷、迷走を受けて各メディアもそれぞれ言論を打ちます。 ダイヤモンドオンラインの真壁昭夫氏文責の記事もその一つで シャープを含む日本電機メーカー凋落の原因を 顧客の望む商品を提供できなくなっている企業体質に求めて[※2] います。 アップル社のiPhoneがプロダクトアウト型で開発された商品ですので 些かマーケットイン型と思われる回復の条件付けに違和感がありますが、 顧客に受け入れられる商品を提供出来ていない旨には大いに首肯出来ます。 近年シャープ製だから欲しいとそのブランドによる購買欲を掻き立てた商品を知りません。

真壁氏は手厳しくも更には企業の体制を 収益を上げられるものに移行する能力がない経営陣を批判します。 現状を見れば致し方のない処でしょう。 リストラに当たって人員削減を未だに聖域と声高に叫ぶ経営陣には浮世離れの感が否めません。

これらを全て鑑みればされ、 シャープの身売りも有ではないかと思えて来ます。 孰れ鴻海との提携がそれに近いものと巷間言われるならば中途半端になるよりも 堂々と丸ごと身売りというアクションを受け入れてみても好いのではと思えるのです。 その受け入れ先としては何処が適当であるかと思いを廻らせば、 ソフトバンクなどは如何であろうかと思うのです。

今シャープの時価総額は2,000億円辺りを推移しています。 ソフトバンクがボーダーフォンを買収した際の金額は1兆7,500億円でした。 この際、買収資金調達の内ソフトバンクが2,000億円、ヤフーが1,200億円を出資していました。 依って ソフトバンクモバイル株式会社 が設立され日本の3大キャリアの一つとして今日に至っていると言う塩梅です。 勿論時価総額で買収額が決まる訳ではありませんが、 金銭的可能性は無きにしも在らずと言った感じではないでしょうか。

これは勿論全く妄想を逞しくしただけのお話ですが、 もしソフトバンク社がシャープ社を買収したら 自前スマートフォンハードウェアの開発が現実的になり アップル社を追い掛ける可能性も出て来ます。 キャリアが端末開発を手掛ける問題も多々発生するでしょうが、 マイクロソフトが自社端末を発売する時代に ソフトバンク総帥も黙ってはいられないでしょう。

またソフトバンクが近年力を入れているメガソーラー事業に於いても 太陽光発電パネルの自前供給が可能になります。 孰れ買取価格制度は見直しが必要なのは謂う迄も有りませんし、 お国の取り決めに乗っかっているのもソフトバンクには本意ではないでしょうから、 予てより準備を怠らないための競合他社へ優位性を保つために 自前パネルは使いように依っては強力な武器となるでしょう。

シャープに取ってもソフトバンクに買収され金銭的に汲々とすることの無くなった中で、 業務的には厳しく締め付けられればやる気のある優秀な社員に取っては返って好いかも知れません。 元来、大メーカーには優れた人材が多いものです。 彼等を巡る周囲の条件さえ整えば程無くヒット商品も生まれ、 それでこそ社会に還元出来る企業足れるのでしょう。 その時はシャープを名乗ってこそいないかも知れませんが。

追記1(2019年6月12日)

シャープ社の経営再建完了を朝日新聞[※4] 日経新聞[※5] などの新聞系、及びテレビやラジオ系など、 既存大手メディアが挙って昨日、2019年6月11日に伝えています。 各記事を見れば、何を以て経営再建完了とするかは、 当初2,000億円分発行していた主力取引銀行二行保有優先株の残り1,000億円分の全ての消却です。 金融支援を受けたあかしたる優先株の全消却を以て財務は正常化し、 経営再建の完了と捉えると言った塩梅です。 残り優先株全買い取りの今月21日実行の当該社の発表を以て、各報道の配信記事と相なったのでした。 此の優先株とは議決権こそ持たないものの、普通株と異なり配当が高く、てて加えて来月7月以降に、 保有銀行が普通株への転換を請求できる権利が発生するのでした。 二行保有の優先株を全て普通株に転換すると株式総数は二割増しになり、 既存株主の影響力が其の分薄まる勘定です。 だからこその今月中21日の償却となるのでした。 此の二行こそ、 本記事当初配信時に伝えた、 みずほコーポレート銀行 及び 三菱東京UFJ銀行 であり、影響力が薄まり困る株主こそ 鴻海ホンハイ・コウカイ精密工業 でした。

本記事にはシャープの救済者にソフトバンク社を挙げましたが、 当の総帥は社中操業を以て黒船の購入に充てる方に熱心で、 国内古参企業に興味は抱く様子がありませんでした。 結局は本記事配信時に二の足を踏んでいた Foxconn Technology Groupフォックスコン テクノロジー グループ の中核企業、鴻海精密工業にシャープ社は救済され、傘下となった経緯が有ったのでした。 救済決定の切り札ともなったのが二行の2015年6月の金融支援であったのだと思われます。 其の際発行の優先株が優良株に変じれば、其れは今となっては其の儘、鴻海側の不都合となる構図です。 此の優先株を優良株へと変貌せしめたのが、 2016年5月12日付けでシャープ社新社長として鴻海から送り込まれた 戴正呉たいせいご 副総裁[※6] でした。 新興フォックスコンを急成長せしめた氏の辣腕で以てシャープ社は業績回復し、 2017年12月に東京証券取引所一部復帰を果たしてもいました。 以て経営再建と見做しても宜しかろう処、 今回、財務正常化の条件も加わって尚、経営再建完了の義は強まるのでしょう。

シャープ再建の立役者、戴氏は2017年の一部上場復帰時には辞意も漏らしていた[※7] ものの、然うはさせたくなかった周囲との兼ね合いもあったのでしょう、翌2018年には会長職をも兼任する処となりました。 6月11日の事業方針説明会には其の戴氏も臨席[※7] したのでしたが、 会長職を2019年度から2021年度まで延長し、 2020年からの中期経営計画に尽力する意向を示しました。 対外的には経営再建完了宣言したものの、若しかしたら其の先に、 更なる嘗ての目の付け所がシャープな復活のビジョンがあるのかも知れません。

追記2(2021年5月30日)

シャープ社の復活について、 本ブログ2012年12月27日の記事 シャープ虎の子技術IGZOとは何か?復習してみる に、 AQUOS R6 発表及び採用されたIGZO有機ELディスプレイである Pro IGZO OLED などと併せ追記しました。

かたむき通信参照記事(K)
  1. クソ株ランキング2012上半期にノミネートされる企業をビジネス記事に見直してみた(2012年7月9日)
  2. シャープ残酷物語~免れ得ない大幅人員削減(2012年7月24日)
  3. CVP分析への疑義とSCP分析に依るシャープ及びルネサスの改善方向性の示唆(2012年8月3日)
  4. シャープ危機~株価ストップ安が鴻海出資交渉に影響(2012年8月4日)
  5. シャープ新IGZOにiPhone5新Retinaディスプレイの可能性(2012年6月2日)
参考URL(※)
  1. シャープの命運を握る鴻海と二つの銀行(東洋経済:2012年8月28日)
  2. ここまで来てしまったら、シャープはどうすべきか? 日の丸家電が辿る「古典的な衰退」と生き残りの条件(ダイヤモンド・オンライン:2012年8月28日)
  3. ソフトバンクがボーダフォンを買収、買収額は1兆7,500億円(Internet Watch:2006年3月17日)
  4. シャープ、経営再建完了へ 優先株を銀行から買い戻し(朝日新聞デジタル:2019年6月11日)
  5. シャープ、優先株全て消却へ 主力2行から買い取り(日本経済新聞:2019年6月11日)
  6. シャープ新社長、「日本通」は表の顔(日経ビジネス電子版:2016年5月13日)
  7. シャープ復活させた戴正呉社長「目標達成したので辞めたい」(ASCII:2017年12月12日)
  8. シャープ、「8K+5G、AIoTで世界を変える」事業方針を発表--BtoBの構成比引き上げへ(CNET Japan:2019年6月11日)
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